今ドラフトの「隠し玉」?!
来週26日に迫った2020年のドラフト会議。今年は新型コロナウイルスの影響で各カテゴリーの大会やリーグ戦の中止などもあり、スカウト活動も縮小気味となって各球団とも苦戦を強いられてきた。そんな中、今年のドラフトは、独立リーグの選手にとって大きなチャンスではないかと言われている。
プロ(NPB)への「王道」である高校、大学、社会人の大会が中止、縮小、あるいは、無観客となった中で、独立リーグは多少の規模の縮小はあれども、有観客の公式戦、つまり本気モードの試合を実施し、スカウトも例年より多く足を運んでいたからだ。
もはや独立リーグレベルの打者では太刀打ちできず、今シーズンはレギュラーシーズンの半分以上の30試合に登板し、2勝負けなしの10セーブ、防御率1.37という圧倒的な成績でチームの地区優勝に貢献した。イニング数39回1/3を上回る奪三振数「40」からは、その剛球ぶりがうかがえる。
紆余曲折を経て辿り着いた働き場所
高橋のこれまでの野球人生は順風満帆とは言い難かった。地元・滋賀の水口高校から福井工業大学へ進むが、肘の故障もあり、プロにも多く選手を輩出した強豪にあって、頭角を現すことができないまま卒業を迎える。
高橋は不完全燃焼の状態でユニフォームを脱ぐことを潔しとせず、2017年、この年からBCリーグに参戦した滋賀ユナイテッド(現オセアン滋賀ユナイテッド)に入団。しかし、2シーズンで勝ち星なしの7敗と芽が出ずに退団となった。
大学時代の故障からフォームを崩し、高校時代に140キロを超えていたストレートは130キロ台に落ち込み、上体が突っ込むという悪癖のため制球も定まらない。被打率も高く、与四死球率も1年目の「6.87」から「9.79」へ。1イニング投げれば2人のランナーを出す不安定な投球は、独立リーグレベルでも通用するものではなかった。敗戦処理としてマウンドに上がった当時の彼を見た印象は、独立リーグレベルでも並み以下の投手というものだった。
独立リーグ3年目となる2019年には環境を変えるべく、同じBCリーグの福井ミラクルエレファンツに移籍。ここで元中日の福沢卓宏投手コーチに出会ったことが大きな転機となる。大学時代、「その他大勢」のひとりだったため、指導者からのアドバイスをほとんど受けたことがない高橋のフォームの崩れに気づいた福沢は、軸足に体重を残し、左足を踏み出した時点で右肩を軸足側に残すよう指導する。
このフォーム改善によって、いわゆるタメができた高橋の球速はみるみるうちに上がっていった。パワーピッチャーとしてリリーフという働き場を与えられた高橋は、この年、初勝利を含む1勝2敗9セーブを挙げ、防御率も前年の「11.87」から「2.60」へと大幅に改善した。
ウインターリーグでの出会いと経験
この時点で、独立リーグ3年目の24歳。多くの独立リーガーたちが、夢をあきらめ、次の人生のスタートを切る年齢だ。だが高橋には、大学時代にほとんど投げていない分、伸びしろがあった。それは、10キロ以上も上がった球速が示していた。あとは制球さえ磨けば十分にプロでやっていける。そう考えた高橋は、2020年シーズンをラストチャンスと決め、つてを頼ってオーストラリアのウインターリーグに参加した。
リーグに加盟するニュージーランド唯一の球団、オークランド・トゥアタラには日本人選手が多く在籍しており、その中でも、プロを経験している村中恭兵(元ヤクルト)、北方悠誠(元DeNA、ソフトバンク)との出会いは、NPBという世界が決して自分の手の届かないものではないことを感じさせた。
外国人枠などの問題もあってロースター枠から外れるなど、勝手の異なる環境もあり、ウインターリーグでは5試合の登板機会で0勝1敗、防御率6.48という成績に終わる。おまけにチーム初のポストシーズン、決勝シリーズ進出のかかった大一番でリリーフ登板しながら敗戦投手になるなど、ニュージーランドでの経験はほろ苦いものとなった。
それでも得るものは少なくなかった。練習まではふざけているのではないかと思えるほどリラックスした状態なのに、いざ試合となると、途端にスイッチが入る現地の選手に姿に、オンとオフの使い分けを学んだ。帰国後、高橋は試合中はベンチを出て音楽を聴くなどして極力リラックスし、自分の出番に備えるようになる。
複数球団が興味
チームは新たなオーナーを迎え、福井ワイルドラプターズとして生まれ変わり、自分を生まれ変わらせた福沢が監督に就任。高橋の球速は、150キロ台半ばをコンスタントに記録するようになる。速球派にありがちな制球力の課題も、前年の四死球率「5.02」から今年は「2.52」に大幅改善するなど、完全に克服した。
BCリーグは、現在レギュラーシーズンを終え、ポストシーズンの真っただ中。17日のプレーオフ第1戦、富山GRNサンダーバーズとの地区優勝決定戦では最後の1イニングを3人で締め、胴上げ投手となった。チームは、21日からトーナメント制のリーグ優勝決定シリーズに突入する。決勝は25日。ドラフトの前日だ。
福井は前身球団時代からまだ一度もリーグ制覇を果たしていない。福井にペナントを持ち帰り、150キロ右腕、高橋康二は運命のドラフトを待つ。
取材・文=阿佐智(あさ・さとし)