大学No.1スラッガーの去就に注目
10月26日に迫ったドラフト会議。新型コロナウイルスの影響で高校野球では春夏の甲子園大会が中止に。その他のカテゴリーでも大会の中止や試合数の削減、規模縮小が相次ぎ、ドラフト候補の選手たちはアピールする場が例年以上に限られるシーズンとなった。そんななかで注目を集めているのが、近畿大学のスラッガー・佐藤輝明である。
身長194センチ、体重94キロという堂々たる体格。左打席から放たれる逆方向への打球は、ソフトバンクの柳田悠岐を彷彿とさせるものがある。長打力もずば抜けていて、現時点での大学通算本塁打数は「14」。二岡智宏(元巨人など)が記録した関西大学リーグの通算本塁打記録を塗り替えたことでも話題になった。
すでにオリックスや巨人、ソフトバンクがドラフト会議前から1巡目指名を公言するなど、今年のドラフトの目玉選手となっている。少し意外かもしれないが、過去のドラフト会議で大学生野手がここまで注目を集めるのは珍しいケースだ。
近年はいまひとつ?
ここでは、競合指名を経て入団した大学生野手の大物選手たちはどんな成績を残してきたのかを見ていきたい。入札方式(くじ引き)が導入された1978年のドラフト会議以降、1巡目指名で抽選となった大学生野手の指名球団数と通算成績だ。
1993年から2007年までのドラフト会議では、大学生の選手は逆指名・自由枠指名などで競合せずに希望球団に入団できたこともあり、該当したのは9選手と少ない(※現役選手の通算成績は10月25日現在)。
▼ 1979年
岡田彰布(早稲田大学⇒阪神)
指名球団数:6
西武、ヤクルト、南海、阪神、阪急、近鉄
通算成績:1639試合出場 打率.277 247本塁打 836打点
主なタイトル:新人王
▼ 1980年
原辰徳(東海大学⇒巨人)
指名球団数:4
大洋、日本ハム、巨人、広島
通算成績:1697試合出場 打率.279 382本塁打 1093打点
主なタイトル:新人王、MVP、打点王、最多勝利打点2回
▼ 1984年
広沢克己(明治大学⇒ヤクルト)
指名球団数:3
日本ハム、ヤクルト、西武
通算成績:1893試合出場 打率.275 306本塁打 985打点
主なタイトル:打点王2回、最多勝利打点2回
▼ 1987年
長嶋一茂(立教大学⇒ヤクルト)
指名球団数:2
大洋、ヤクルト
通算成績:384試合出場 打率.210 18本塁打 82打点
▼ 1991年
田口壮(関西学院大学⇒オリックス)
指名球団数:2
日本ハム、オリックス
通算成績:1894試合出場 打率.277 89本塁打 592打点
※日米通算
▼ 2008年
松本啓二朗(早稲田大学⇒横浜)
指名球団数:2
阪神、横浜
通算成績:302試合出場 打率.235 7本塁打 45打点
▼ 2010年
伊志嶺翔大(東海大学⇒ロッテ)
指名球団数:2(※ハズレ1位)
オリックス、ロッテ
通算成績:448試合出場 打率.242 6本塁打 59打点
▼ 2015年
高山俊(明治大学⇒阪神)※現役
指名球団数:2
阪神、ヤクルト
通算成績:429試合出場 打率.253 20本塁打 135打点
主なタイトル:新人王
▼ 2018年
辰己涼介(立命館大学⇒楽天)※現役
指名球団数:4(※ハズレ1位)
楽天、阪神、巨人、ソフトバンク
通算成績:219試合出場 打率.228 12本塁打 49打点
現役のふたりを除くと、明確なちがいが出てくるのが指名球団の数である。3球団以上で競合した選手は岡田彰布、原辰徳、広沢克己と、3選手とも通算1500試合以上に出場する主力選手に成長しているが、2球団の指名でとどまった選手で大成したと言えそうなのは、のちにメジャーへ挑戦した田口壮くらい。ほかの選手は通算500試合未満の出場にとどまり、入団から10年以内に現役を退いている。
現役のふたりに目を向けると、高山俊は1年目こそ新人王を受賞してレギュラーの座を掴んだようにも見えたが2年目以降は停滞。今季は打率.152とキャリアワーストの成績となっている。4球団が競合した辰己涼介は1年目から多くの出場機会を得て、その守備力や強肩などで存在感を示しているが、打率は2年連続で「.250」を超えていない。
指名球団を見ると、大学生野手の競合指名にもっとも積極的だったのが、ともに4回ずつ指名したヤクルトと阪神だった。六大学野球が開催される神宮球場を本拠地としているヤクルトが指名した選手は、いずれも六大学野球で活躍した選手と傾向がはっきりしていたが、意外だったのが阪神。ただ、通算最多安打記録保持者の高山、最高打率記録保持者の岡田という大物に狙いを定めて指名しているあたりは、ひとつのポイントだろう。
逆に、大学生野手の重複指名に一度も参加していないのが中日だ。6球団が岡田を指名した1979年は浪商のエースだった牛島和彦を単独指名したのをはじめ、将来性豊かな高校生の一本釣りに臨む傾向がある。今年のドラフト会議でも、高橋宏斗(中京大中京)の1巡目指名するようだ。
佐藤に何球団が競合し、指名権をどこが手にするのかにも注目だが、プロ入り後にどんな成績を残していくのかにも注目していきたい。
文=福嶌弘(ふくしま・ひろし)