ようやくつかんだNPBへの切符
プロ野球のドラフト会議が26日に行われ、12球団が本指名74名、育成指名49名の計123名を指名した。
今やプロへの重要な選手供給源のひとつとなっている独立リーグからは、本指名3名、育成指名5名の計8名が指名を受け、NPBへの挑戦という夢をつかんだ。そのほとんどの選手が、独立リーグでの2~3年目で指名を受けるなか、独立リーグ在籍4年目にして、育成指名ながら、ようやく思いを遂げたピッチャーがいる。ルートインBCリーグ・茨城アストロプラネッツの小沼健太投手(22)だ。
今シーズン、茨城は7勝49敗4分、勝率.125という壊滅的な成績に終わってしまい、小沼自身も主にクローザーとして25試合に登板したものの、勝ち星なしの3敗2セーブ、防御率も5.34という成績に終わった。昨年も彼は3勝14敗に終わったが、シーズンを通じてローテーションを守り、防御率も3.68と、今シーズン同様、勝率.176という最下位だったチームにあって孤軍奮闘していた。
その前年まで所属していた、武蔵(現埼玉武蔵)ヒートベアーズ時代を含めてキャリアハイの成績をあげていた。それまでの先発から今シーズンはリリーフ。一見すると「降格」だ。前述のようなチーム成績では、クローザーと言っても名ばかり。その上、数少ないリードを保っての「抑え」登板でも、しばしば逃げ切りに失敗している。私が取材した8月の試合でも、リードの場面からサヨナラホームランを食らっていた。
先を行く僚友たち
小沼は千葉県出身の22歳。中学時代の県選抜チームでは、榊原翼(オリックス)とともにプレーしている。地元の東総工高に進むも、甲子園の舞台を踏むことなく、卒業後は独立リーグに進んだ。小沼が武蔵をプレー先に選んだのに対して、同郷の伊藤翔は、四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックスに進み、1年で埼玉西武から3位指名を受けてプロの世界へと進んでいる。
身近にいた同級生2人がプロの世界へと旅立っていくのを尻目に、小沼は独立リーグ4年目を迎えていた。プロへの近道と考えて進んだ独立リーグだったが、いつの間にか、大学に進んだ同級生と同じドラフトに臨むことになったのだ。
正直なところ、小沼のドラフト指名は難しいと思っていた。BCリーグ各12球団のクローザーのなかには、小沼より良い数字を残している投手も数多くいる。私も、別のチームのクローザーに指名の可能性を感じていた。実際、その選手を追いかけてスカウトが球場に足を運んでいたが、その小沼と同じ4年目の投手が指名されることはなかった。
その投手は大卒。プロのスカウトは、独立リーグの選手を目にするとき、成績より“伸びしろ”を見る。小沼には、彼にはない若さもあった。
見えてきた背中
この夏、1年ぶりに会ったとき、彼の表情からは悲壮感さえうかがえた。しかし、先発からリリーフへの配置転換にも、「年齢が上がれば、リリーフとしての指名を狙う方が現実的になってきますから」と、前向きにとらえていた。独立リーグでプレーして以来、成績は決して芳しいものではなかったが、指導者たちは、彼のポテンシャルには目を見張っていた。
独立リーグとは言え、高卒1年目から先発ローテションに入ったことからも、そのことはうかがえる。茨城球団が発足した昨年、埼玉武蔵から移籍したが、球団も彼をプロに進むべき「金の卵」として育てた。その甲斐あって、今シーズンにはストレートは150キロを計測。ロッテも、試合の中盤を乗り越えるためのパワーピッチャーという期待を込めて指名したのだろう。
育成指名ではあるが、同郷の2投手も、榊原は育成指名、伊藤は独立リーグを経由してのプロ入り。雑草育ちから一軍の舞台に立つ切符を手にしている。「石の上にも4年」。プロへの扉をこじ開け、その先にあるふたりの背中がようやく見えてきた。
次の目標は、支配下を勝ちとり地元千葉のマウンドに立つことだ。
文=阿佐智(あさ・さとし)