コラム 2020.11.20. 15:00

球界最年長・福留孝介とコロナ禍【強者たちの秋】

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阪神時代の福留 (C) Kyodo News

第3回:最年長43歳・福留の葛藤


 阪神・福留孝介選手の退団が発表されたのは今月6日のことだった。

 これに先立つ、10月19日に球団との話し合いが行われ、来季の契約を結ばないことが通告された。これを受けて福留は来季の現役続行を望んでいるところから「引退」ではなく、「退団」が決まっている。43歳、現役最年長の新たな挑戦が始まった。

 藤川球児投手は引退セレモニーが行われ、今季限りの退団が決まった能美篤史投手も甲子園のファンの前で最後のピッチングを披露した。彼らとは対照的に福留の別れの場は二軍の鳴尾浜球場。昨年、阪神からロッテに移籍した鳥谷敬選手の時もそうだが、これほどの功労者を送るにはあまりに寂しすぎる退団劇だ。一時は将来の監督候補と目され、選手間の人望も厚かった男にコーチの打診さえなかったという。

 新しくプロの門を叩く若者がいれば、それに弾き飛ばされる者もいる。とりわけベテランには厳しい秋となる。今年の開幕前に40歳台の選手は11人いた。それがシーズンを終えて来季契約が決まっているのは42歳の山井大介(中日)を筆頭に松坂大輔(西武)と石川雅規(ヤクルト)の3選手だけ。前述の藤川や五十嵐亮太(ヤクルト)、石原慶幸(広島)ら6選手が現役を引退。残る能見と福留が他球団に活躍の場を求める。

 どんなに過去の実績があっても現時点の実力がすべての社会である。

 福留の今季は不本意なまま終わった。コロナの影響もあって打撃の調子が上がらないまま出遅れると、チームの若返り策もあり出場機会は激減。シーズンの大半を二軍で送っている。一軍では主に代打で起用されて43試合の出場で打率.154、1本塁打、12打点と自己ワーストの成績しか残せなかった。


コロナ騒動と福留の価値


 中日を振り出しにメジャーではカブスなどで活躍、阪神移籍後もコンスタントに積み上げた安打数は日米通算2407本。42歳の昨年でも10本塁打を放っている。それだけに本人に引退を考える余地はなかったようだ。

 「体は元気だし、大きな故障もなかった。気持ちが折れていない分“まだまだ”というところ」と語るように、来季こそ復活の思いは強い。

 そんな不屈の男にとって、阪神退団へのターニングポイントとなる「事件」もあった。9月19日の名古屋遠征の際に8人で会食。同席者のコロナ感染が判明したため、球団は濃厚接触者扱いとして、出場選手登録を抹消。「会食は最大4人まで」と定めた球団内規を破ったうえ、最年長である福留までがと、激怒したと言われる。

 3月には藤浪晋太郎投手らのコロナ感染が発覚してチームは一時活動休止に追い込まれる。相次ぐ不祥事発覚の責任を取る形で10月には揚塩健治球団社長が今季限りの辞任を発表。こうした度重なる混乱が福留の戦力外通告につながったと指摘する向きもある。

 では、他球団での勝負を決めた福留の商品価値はどれほどなのだろうか? 日米通算で2割8分を超す打撃術は高い。今春のキャンプでは中日の期待の星である根尾昂選手が、「福留さんのような打撃が理想」と語るなど、今でもスペシャルな存在だ。阪神でも近本光司、J・ボーア選手らがアドバイスを求めるなど、慕う選手は多かった。


意外と高いハードル


 これほどの大選手の場合、退団する時には他球団からすでに打診があるケースも多い。ロッテ移籍の鳥谷は井口資仁監督との密接な関係が決め手となった。

 一部報道では、古巣の中日が獲得に動くのでは? という観測もあったが、まだ本格的な動きは見えて来ない。気になるのは同じくソフトバンクから他球団への移籍を模索する内川聖一選手の存在だ。共に首位打者を獲得した実力者同士。左と右の違いはあるが、代打の切り札や外野でも起用が可能。となれば、よほど金銭面の開きがなければ5歳若い、内川に人気は集まるだろう。

 その内川はヤクルトへの入団が決定的とされているものの、昨今は各球団とも若手の育成に重点を置いているため、福留へのハードルは意外に高い。もちろん、茨の道は覚悟のうえで現役続行を決めた。44歳となる来季、最後の活躍の場を求めて福留の就職活動は続く。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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