白球つれづれ2020~第48回・原巨人の改革
日本シリーズでソフトバンクに屈辱の4連敗を喫してから1週間。巨人のチーム改造が加速している。
11月26日には吉川大幾選手に、28日には育成契約の広畑塁、小山翔平選手に戦力外通告を出すと、29日には山本泰寛選手の阪神への金銭トレードが発表された。吉川、山本と言えば、主に控え内野手としてチームを支えてきたが、今季は若林晃弘、田中俊太、北村拓己選手らの成長で、その座から弾き飛ばされた格好だ。
先月上旬には藤岡貴裕、田原誠次投手ら大量14選手に戦力外通告。加えて昨年のドラフト1位、堀田賢慎投手や同じく17年のドラ1、鍬原拓也投手に対して自由契約から育成選手契約を用意。同様な形で高木京介、直江大輔、山下航汰3選手にも“降格処分”を下している。さらに引退を表明した岩隈久志氏や退団の決まったG.パーラらの外国人選手を加えると、11月末時点で27人の人員整理が行われたことになる。
一方で、今年のドラフトでは育成契約を含めると実に19選手を獲得している。まさに「血の入れ替えが必要」という大塚淳弘球団副代表の言葉を地で行く、球団史上最大のチーム改造が行われているわけだ。
かつての“お家芸”は鳴りを潜め…
昨年に第三次原政権が誕生して以来、3年後、5年後を見据えて常勝軍団を作るにはどうしたらいいのか? 議論は加速していった。その結果、導き出されたのが「スカウティングとファームの育成強化」である。
過去の巨人と言えば、豊富な資金力をバックとしたFAによる大物選手獲得が“お家芸”だった。しかし、過度なFA戦略は自軍の若手有望株の出番を少なくするリスクもはらんでいる。また、近年はFAで手を上げた選手が必ずしも巨人ばかりに目を向けるわけではない。
こうした現状を目の当たりにした時、生きた教科書はソフトバンクにあった。
12球団に先駆けて三軍制度を立ち上げ、育成選手をじっくりと育て上げる。今年の日本シリーズでも千賀滉大、石川柊太、L.モイネロ投手に甲斐拓也捕手、周東佑京、牧原大成選手ら、中心選手の多くが育成出身。MVPに輝いた栗原陵矢選手も高卒から5年間をかけてファームから這い上がってきた。将来を見据えても楽しみな人材が控えている。
「常に優勝争い出来るチームを作り上げるにはまず、スカウティングと育成。その土台の上にFA、トレード、外国人補強がある」原監督や大塚副代表らによるチーム改造計画が実践に移されたのが今オフの大量人員整理である。
そんな中で、シーズン中から整理対象として注目されてきた選手がいる。小林誠司捕手と野上亮磨投手だ。
気になるふたりの今後は!?
昨年まで主戦捕手としてマスクを被り続けて来た小林は完全に指揮官の信頼を失った形。故障もあるがシーズンの大半をファームで送り、今では大城卓三、炭谷銀仁朗、岸田行倫捕手の後塵を拝して「第4の男」扱い。
一説には正捕手としてのプライドの高さが邪魔をして危機感のなさにつながっていると言う情報もある。とは言え、昨年まではリーグ屈指の強肩捕手として侍ジャパンの代表にまで選ばれた実績もある。このまま埋もれていくにはもったいない素材だ。すでにシーズン中から他球団の調査は進んでいると言う。特に捕手の手薄な楽天、日本ハムあたりが食指を伸ばして来るか。
一昨年に西武からFA移籍の野上も今季は一度も一軍に呼ばれることがなかった。相次ぐ故障もあって西武時代の輝きは失われている。本来であればエースの菅野智之投手のメジャー挑戦で手薄になるかもしれない投手陣にあって、復活が待たれるところだが、現状は厳しい。
チームの改革路線を見れば両選手の去就に注目が集まるのは当然のこと。現時点で整理対象になっていないことを推察すると、今後トレード要員として浮上も考えられる。
かつては有力選手の「飼い殺し」という言葉があった。他チームで活躍されたらまずいという判断が優先された時代である。しかし、「トレードと言うと後ろ向きにとらえられがちだけど、そんなことはない。むしろチャンス」と原監督は言う。
ソフトバンクに完膚なきまで叩きのめされた名門軍団。だからこそ気づく物もある。次は継続こそ力である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)