「一発サイン」でお馴染みの男が…
コロナ禍により、開幕時期から試合数、来場者の受け入れ人数まで変わった特別シーズン。さて、契約更改交渉はどうなるのか…。
中日は11月26日にスタート。大きな金額の変動のない複数年契約を結ぶ大野奨太や平田良介を除いた、単年契約のトップバッターとして、高橋周平がテーブルについた。
結果は予定時間の倍を費やす80分の粘り腰。だが、希望はかなわず2000万円増の8000万円でサインした。
「球団との差は500万円でした。コロナ禍ですし、1億円ほしいなんて思っていません。もう500万円の上積みがほしかったんですが、コロナがありますし、仕方ないと思っています」
会見も含めて1時間の予定。それが交渉だけで約80分にも及んだ。過去8年間、すべて提示額に一発サインしてきた「一発屋」による、銭闘意欲の発揮だった。
高橋周平が見せた“粘り”の理由
なぜ、粘りに粘ったのか…。そこには、中日ならではの事情がある。
「球団から『Bクラスだから上がらない、Aクラスになれば上がる』とずっと言われてきました。だから、言いたいことを我慢してきた。きょうは『Aクラスに入った時ぐらい、活躍したときぐらい上げてもらわないと困る』と言いました。複数年の選手を除いて、ボクが最初。次の選手のためにも伝えることは伝えなきゃ、と。ボクもそういう年齢になりました」
入団9年目の26歳。高卒ドラ1で入団した2012年こそ2位だったが、それ以降はずっとBクラス。ようやく果たしたAクラスに、大幅増の期待もした。
球団からはBクラスを理由に年俸を抑えられてきたと感じてきたし、交渉の席でそう告げられてきた。だから、500万円をつかみにいった。
すべて狂ったのは、コロナ禍だから。7年間、押さえつけられてきた年俸、抑圧された感情を解放したくても、敵がウイルスではどうしようもない。選手会側が一方的な減俸にクギを刺す要望書を球団側に出す経緯があろうが、予期せぬ事態に球団側も無い袖は振れない。経営状況も伝えられ、最後は納得。サインした。
この日は、正捕手筆頭候補の木下拓哉が保留している。12球団で保留第1号となった。
長年にわたり成績を抑えられたと感じてきて、Aクラス入りした今年こそ成績を年俸に反映してもらいたい選手側と、収入激減により支出を抑えなければならない球団側の事情がある。
コロナ禍で試合数は減った。選手からは活躍の舞台を消し、球団からは収入を奪った。今季は、互いが歩み寄り、折り合う着地点を探る契約交渉となる。
特別なシーズンの終わりには、特別な契約更改交渉があった。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)