今年は冬の開催となった社会人の大一番
11月22日から12日間にわたって東京ドームで行われた『第91回都市対抗野球大会』。例年は夏場に行われる“社会人野球の祭典”だが、今年はその時期に東京五輪が行われている予定だったため、本来であれば野球のシーズンオフであるこの時期の開催となった。
それが新型コロナウイルス感染拡大の影響から、今年はこの都市対抗が社会人野球における唯一の全国大会に。その分、例年以上にレベルの高いプレーが多かった印象も受けるが、そんな“異例の年”に黒獅子旗を掴んだのは狭山市・Honda。攻守に安定した戦いぶりを見せ、見事11年ぶりの優勝を果たしている。
前回のコラムでは、10月26日に行われたプロ野球・ドラフト会議で指名を受けた選手を中心に活躍を振り返ったが、今回は来年のドラフトを盛り上げるであろう男たちに注目。
2021年にドラフト指名が解禁となる「大学卒1年目」と「高校卒2年目」の選手を取り上げていきたい。
一躍「ドラ1位」候補に浮上した廣畑
投手で最も強烈なインパクトを残したのは、間違いなく廣畑敦也(三菱自動車倉敷オーシャンズ)だろう。帝京大時代もドラフト候補に挙げられていた右腕だが、この1年で驚きのスケールアップを果たした。
初戦では、前年優勝のJFE東日本を相手に、立ち上がりから150キロ台のストレートで圧倒。3回と4回には自身最速となる154キロをマークするなど、強力打線を7安打・1失点に封じ込めて完投勝利をおさめた。
続くセガサミー戦でも、2点リードされた5回途中から登板し、3回1/3をパーフェクトの快投。2回戦で敗れたチームの選手が新人賞にあたる若獅子賞を受賞するのは異例のことであるが、それだけ広畑のピッチングが素晴らしかった。
コンスタントに150キロを超えるストレートは数字に見合う勢いがあり、内角いっぱいに腕を振ってベストボールを投げられるというのが得難い長所である。
また、140キロ台のカットボールと130キロ台のフォークも勝負球で使えるレベルのボールで、110キロ台のカーブで緩急をつけられるのも大きい。
フォームは大学時代よりも少し反動をつける動きが大きくなったように見えるが、リリースの感覚は抜群。ストレートも変化球もしっかり抑え込んで低めに集められる制球力も見事だ。
今大会の活躍で、一躍来年のドラフト1位候補に躍り出たことは間違いないだろう。
「変則トルネード」鈴木大貴が快投
惜しくも初戦で敗れたものの、廣畑に並ぶ最速154キロをマークしてスカウト陣を驚かせたのが、鈴木大貴(TDK)だ。
福島東時代は全国的に全く無名で、流通経済大でもエースではなかったが、持ち味のスピードを生かして社会人1年目から台頭。ベスト4に進出した日本新薬の強力打線を相手にも、ひるむことなく立ち上がりからストレートで押しまくり、6回を投げて被安打4、2失点としっかり試合を作って見せた。
大きく振りかぶってからトルネード気味に体をひねり、サイドスローよりのスリークォーターから投げ込む変則フォームも特徴的だ。腕が遅れて出てくるため、打者はタイミングが取りづらい。
体の使い方は全く違うが、指先の感覚の良さも廣畑と通じるものがあり、140キロ近いカットボールの鋭さも目立った。縦変化と緩いボールのレベルが上がれば、さらにそのスピードが生きるようになるだろう。プロではリリーフとして面白いタイプだ。
「最速154キロ」トリオ
結果はもうひとつだったものの、スピードで目を引いたのが八木玲於(Honda鈴鹿)、吉村貢司郎(東芝)、米倉貫太(Honda)の3人だ。
八木は2試合にリリーフで登板して、いずれも最速154キロをマーク。しかし、リズムが単調で左肩の開きが早く、150キロ台のストレートを完璧に合わせられるシーンが目立った。ただ、馬力は社会人全体でも上位だけに、引き続き高い注目を集めることになるだろう。
吉村もリリーフで登板して最速152キロをマークしたが、打者8人に3四球と制球に苦しんだ。八木と比べてもフォームのバランスは良いが、出力が上がったことにリリースの感覚が追い付いていないように見えた。そのあたりをどう調整できるかがポイントとなりそうだ。
一方、米倉は準々決勝で151キロをマークしたものの、打者2人に対してわずか6球で降板というほろ苦い東京ドームデビューとなった。ただフォームの良さは高校時代から変わらず、素材の良さは一級品である。来年で高校卒3年目とまだまだ若いだけに、頼れる変化球ができてくれば、一気に上位候補に浮上してくることも考えられる。
若獅子賞を獲得した朝山広憲に注目
逆に結果でアピールしたのが、廣畑とともに若獅子賞に輝いた朝山広憲(Honda)だ。
初戦の大阪ガス戦こそ3回4失点で降板したものの、準々決勝の西部ガス戦では7回を投げて無失点、13奪三振の快投。そして中1日で迎えた決勝でも、NTT東日本の強力打線を相手に8回を被安打3・1失点と見事な投球でチームの優勝に大きく貢献した。
コーナーをきっちり突ける投球は安定感抜群。プロとなるとボールの凄みや必殺の変化球などが物足りないが、大学4年から浮上してきただけにこのまま結果を残し続けていけば、獲得を検討する球団も出てくるだろう。
サウスポーで目立った投手は?
サウスポーでは森翔平(三菱重工神戸・高砂/NTT西日本に補強)や高橋佑樹(東京ガス/JR東日本に補強)といった、補強選手として出場した2人が有力候補だ。
森は単調になったところを痛打されて結果はもうひとつだったが、左投手では大会最速となる149キロをマークするなど、改めて能力の高さを見せた。フォームに目立った欠点がないだけに、何かきっかけをつかめば一気に安定感もアップするだろう。
高橋はスピードこそ140キロ台前半が多いが、上背以上にボールの角度があり、同じ腕の振りで高い位置から投げられるカーブ、スライダーとのコンビネーションは見事。敗れたHonda熊本戦では5回途中4失点で負け投手となったものの、3回まではパーフェクトピッチングを見せている。大舞台での実績も申し分なく、貴重な左の先発タイプとして面白い存在だ。
その他にも、登板機会こそ少なかったものの内沢航大(JR北海道硬式野球クラブ)や佐藤開陸(TDK)、手塚周(SUBARU/日立製作所に補強)、稲毛田渉(NTT東日本)らも持ち味を発揮しており、引き続き注目していきたい投手たちだ。
外野手に目を引く選手が続々
野手では、火ノ浦明正(NTT東日本)、船曳海(日本新薬)、藤井健平(NTT西日本)、山本卓弥(Honda熊本)など、外野手に目立つ選手が多かった。
この4人は全員が今大会でホームランを放っており、いずれも長打力を備えているが、強打者タイプでは火ノ浦と山本の2人になる。
特に山本の癖のない鋭い振り出しは出色で、打球が上がる角度も長距離砲らしい。今大会は1番を任せられていたが、来年は主砲として期待したい。
船曳と藤井の2人は三拍子揃った万能タイプ。ともに外野の守備、スピード溢れる走塁でも目立つが、今大会では打撃も見事だった。
また、藤井は9番打者ながら8打数6安打、打率.750と大暴れを見せ、野手では唯一の若獅子賞を受賞。社会人にしてはまだ細身だが、着実に打力がついてきたことを証明してみせた。
ショートでは中川智裕のスケールが目立つ
プロからの需要が高いショートでは、池間誉人(日本製鉄鹿島)と中川智裕(セガサミー)、和田佳大(トヨタ自動車)、水野達稀(JR四国/四国銀行に補強)などが目立った。
中でも、スケールの大きさでNo.1と言えるのが中川だ。
恵まれた体格を誇り、スローイングはまさに“矢のように”と表現したくなるような迫力。今大会もたびたび好プレーを見せた。
一方で、打撃面では踏み込みの強さがもうひとつで、外のボールに対しての弱さがあるが、インパクトの強さと長打力は申し分ない。
守備で一際目立ったのは和田だ。167センチと小柄ながら、プレーのスピード感は抜群。送球の正確さも素晴らしいものがある。打撃にもう少し力強さが出てくれば十分プロも狙えるレベルの選手だ。
捕手では、抜群のスローイングを見せた井内駿(JR北海道硬式野球クラブ)、内野手ではシュアな打撃と安定した守備を見せた貞光広登(Honda鈴鹿)なども、来年注目される存在となりそうだ。
☆記事提供:プロアマ野球研究所