第2回:完走したペナントに落ちた影
12月1日付で阪神球団の人事刷新が発表された。
阪神電鉄の会長であり、球団オーナーである藤原崇起氏が球団社長も兼務することになった。これに伴い揚塩健治球団社長が退任、球団を揺るがせたコロナ騒動による引責辞任だ。
長い歴史を誇る名門球団でもオーナーが球団社長を兼務するのは珍しい。現在の阪神の親会社は阪急阪神ホールディングスである。経営規模で勝る阪急が事実上の吸収合併する形で誕生すると、猛虎ファンの間では当時「阪急タイガースになるのでは?」とか「タイガースの名が消えてしまうのでは?」と言った不安の声も上がった。しかし、球団に関しては阪神側に任せることで両社間が了承したとされる。
今回の球団再建策も阪神の総帥である藤原電鉄会長自らが責任の前面に立つということは、背水の陣ということだ。2005年、岡田彰布監督時代にリーグ優勝を飾って以来、実に15年の時がたつ。間違いなくチームは大きな曲がり角に直面している。
阪神のコロナ騒動
コロナに揺れる球界で最初の激震発生地が阪神だった。
3月に藤浪晋太郎投手ら3選手のコロナ感染が判明、その後4選手も知人宅での会食に出席していたことが明らかになった。この時点では同月に予定されていた開幕も6月への延期が決定。NPBではサッカー・Jリーグら他のスポーツ団体ともコロナ対策の協議会を開くなど、感染防止策に腐心していた。それだけに藤浪らの行動は自覚が足りないと批判の矢面に立たされる。不祥事はこれだけで終わらない。
9月下旬には二軍にいた浜地真澄投手の陽性発覚を機に、糸原健斗、陽川尚将、岩貞祐太、馬場皐輔各選手らの感染と、濃厚接触の疑いで福留孝介、木浪聖也、岩崎優選手らがチームを離れて、急遽二軍から9選手が補充される大騒動となった。
シーズンが始まると全球団は手洗い、うがいに“三密”の回避など、基本の徹底から遠征先での外出規則や同一ポジションの選手同士の会食は控えるなど、細部にわたった指示を行っている。だが、阪神の場合は春の藤浪騒動がありながら、その反省が全く生かされていなかった点に、管理の甘さと当事者たちの自覚不足が指摘されても仕方ない。
巨人と並ぶ人気球団には昔から“タニマチ”との交友問題が指摘され続けて来た歴史がある。こうしたルーズな管理体制が今も存在するなら、コロナを機に根絶する時期に来ている。
ロッテを襲ったコロナショック
阪神と共に、コロナがペナントレースに大きな影を落としたのがロッテである。
優勝争いも大詰めに向かう10月初旬の札幌遠征直後、岩下大輝投手とチームスタッフの陽性反応が判明。直後には角中勝也、荻野貴司、藤岡裕大選手やコーチ、スタッフなど11人の感染も明らかになった。こちらは事後処理の説明が迷走した感がある。
いずれにせよ、多くのレギュラー陣を失って迎えた対ソフトバンクとの天王山。初戦こそ勝利してゲーム差なしの1厘差まで追い上げたが、2戦目以降を失って覇権は遠ざかっていった。ソフトバンクはここから破竹の12連勝。ロッテとのクライマックスを制し、巨人との日本シリーズも4連勝で頂点に駆け上がった。
もちろん、ソフトバンクにも、巨人にもコロナ禍は襲った。巨人は開幕前に坂本勇人、大城卓三選手らが“偽陽性”により入院、隔離生活を余儀なくされる。ソフトバンクでは8月に二軍調整中の長谷川勇也選手の陽性が判明、この結果、一軍選手も施設を利用していたため西武戦が中止に追い込まれている。
どの球団にも多かれ少なかれ影響を及ぼしたコロナだが、被害を最小限に食い止めたチームと大きな傷跡を残したチームでは当然のことながら明暗がくっきりと分かれた。
阪神、ロッテ共にリーグ2位。これだけのコロナ被害にあいながら奮闘という見方も出来るだろうが、優勝チームには独走を許している。
来季は、今年のような異常なシーズンにはならないことを願う。だが、もう始まっている自主トレや2月のキャンプでは、まだコロナ禍の影響は避けられない。阪神やロッテに限らず、今季の反省と来季への教訓を生かしてもらいたいものである。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)