白球つれづれ2020~第50回・新庄剛志と野球界の今後
48歳の夢は終わった。
元阪神、メジャー、日本ハムなどで活躍した新庄剛志さんがプロ野球復帰断念を自身のインスタグラムで明らかにした。
今月7日に行われたNPBの12球団合同トライアウトに挑戦、溌剌とした動きで左前にクリーンヒットも放ち、獲得に動く球団があるのか注目されていた。だが、結果は不採用。現実の厳しさを改めて突き付けられた格好だ。
直前には日本ハムOBである岩本勉、森本稀哲氏らが「獲得する球団はある。パ・リーグのあるチーム」と語っていることもあって、古巣・日本ハムへの復帰が有力視されていた。近年のチーム不振で観客動員に陰りが見えていること、2023年から移転する新ドーム球場までの話題性や有原航平、西川遥輝選手らのメジャー流失で、それに代わる人気選手が欲しいところだったからだ。
一方で、同球団の吉村浩GMはトライアウト直後に「(獲得に)動き出すことはないでしょう」と語っている。チームの台所は火の車、話題性は認めても強化重視なら有望な若手育成を優先するのも当然だろう。
復帰断念の一報を受けて、ネット上では様々な意見が寄せられている。中でも目を引いたのは「何で野球界はこれだけの人気者を採用しないのか?」「野球人気の下降が言われる時に人気も話題性もある新庄を活用しない手はない」と言った意見だ。しかし、専門家は冷静な分析もする。
「年齢を考えれば素晴らしい動きだったことは認めるが、話題性や集客力は試合に出られてこその副産物であり、各球団の判断は正当なものだった」と、野球評論家の里崎智也氏は14日付の日刊スポーツで綴っている。新庄さん本人もトライアウト前から動体視力の衰えは認めており、150キロ台の快速球とフォークボールのような急激に変化するボールへの対応を鍵としていた。
当コラムで何度か指摘したが、各球団は総じて若返りと育成に舵を切っている時代だ。シーズンを通じてレギュラー級の働きが出来れば“新庄効果”もあるだろうが、そこまでの力はないと判断されたわけである。
現役引退後は役者をやったり、南太平洋のバリ島に移住して画家を志すなど挑戦を続けて来た。「次はまた何か楽しいことをやります。野球は100%ありません」と、すでに次の世界を見つめる。常に楽しいこと、周囲を驚かすような夢への挑戦を志す“宇宙人”には、今回の結果も一つの通過点なのかも知れない。
野球界に横たわる様々なハードル
近年、野球人気の低迷が叫ばれて久しい。そういう観点から見ると今回の新庄さんの露出は確かに考えさせられる点もある。イチローさんの高校野球指導もそうだ。テレビ、新聞、ネットなどのマスコミで現役の野球選手が大きく扱われることはかつてに比べて少なくなっている。
野球の競技人口は夏の甲子園予選出場校を見ると2003年の4163校をピークに昨年は3730校と16年連続で減少している(高野連発表)。サッカーやバスケットにラグビーまでプロ化して競技の選択肢が増えている一方で、2024年のパリ五輪では野球とソフトボールの再除外が決まっている。
またある調査では、旧態依然の指導法や「丸刈りになるのがイヤ」という理由から野球を離れる現実もある。他にもゲームを中心とした遊びの変化、地上波中継の減少や野球を楽しめる場所の制約などが人気低落の因として挙げられている。
こうした現状から脱するため、野球振興策は高校野球から大学、社会人、NPBやプロ選手会まで含めて行われている。一時に比べてプロ・アマ間の垣根は低くなっているが、改革のスピードが遅いのが問題である。メジャーや他競技団体のようにピラミッドの頂点に立つプロ野球コミッショナーに権限がないのが最大のネックだ。
豊富な資金力と意思決定の力を集めれば改革は加速する。サッカー天皇杯のようなプロ・アマの真剣勝負の場を作れば魅力ある興業が増える。最近、議論に上がる16球団の拡張案が実現すれば地方の野球人気に拍車がかかり、競技人口増加も期待できる。いずれもトップによる英断が必要だが、現在のような12球団に支えられているコミッショナーでは不可能である。野球界全体の構造改革とスピードアップこそ人気回復の最重要案件となる。
もう、野球だけが人気独占の時代は終わっている。新庄さんの人気で一時の話題は得られても長続きするものではない。いま求められるのは真の改革者、リーダーであるべきだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)