第7回:期待の18歳サウスポー
将来を見据えた戦力補強が着々と進められている。ヤクルトは今年、2年ぶりに育成ドラフトに参加。過去最多となる4選手の指名を行った。
若手育成に力を入れ、新たな指導方法にも着手。ファームに育成コーチを設け、土橋勝征氏と山本哲哉氏の2名が就任。二軍投手チーフコーチとして、指導者として経験豊富な尾花高夫氏の就任も決定している。
さらに、楽天を戦力外となった近藤弘樹、ソフトバンクの育成を戦力外となった小澤怜史を共に育成選手として獲得。150キロを超すストレートが魅力の両右腕が、一軍のマウンドを目指す。
2年連続最下位からの逆襲へ、最も大きな課題である投手力の底上げを図りたい。そして、チームの未来を託すエース候補を育てていく必要がある。
そんな中、育成1位で指名した健大高崎高の下慎之介に注目したい。昨秋の関東大会で優勝し、明治神宮大会では準優勝に貢献した左腕。しかし、プロ入りへさらに評価を上げたかった今年の夏の大会で思うような結果を残せずに終わった。
それでも、その原石はプロの舞台で磨かれれば大きな輝きを放つ可能性を秘めている。将来有望な18歳のサウスポーが、プロに入ってレベルアップしていきたい点や目標とする「投手像」を答えてくれた。
スライダーを生かすため、真っすぐを磨く
下の特長のひとつが、キレ味鋭いスライダーだ。ヤクルトの橿渕聡スカウトグループデスクも、日米通算182勝の左腕・石井一久(現楽天監督)のスライダーに例えて高く評価。
下本人も「スライダーに自信がある」とアピールポイントに挙げているが、「スライダーを生かすためにはやっぱりストレートが軸になってくると思う」と話す。
「スライダーをストレートに見せるというのが大事なので、軸となるストレートが良くなればもっとスライダーが生きると思う。真っすぐをやっぱり磨いていきたい」
ストレートとスライダーをいかに同じように見せて打者を牛耳るか。日米通算2550奪三振を記録した石井一久は、現役時代に150キロを超す豪速球と打者の膝元で鋭く曲がるスライダーを武器としていた。まさに、球種の見分けがつかないほどのキレ味で三振の山を築いていった。
「(ストレートの最速)144キロから球速(アップ)もそうですし、球のキレももっといいものにできたら、スライダーの見え方も変わってくると思うので、そこを目指してやっていきたいなと思います」
思い描く「投手像」に石川雅規
下が思い描く「投手像」は、現役最多173勝の左腕・石川雅規の姿だ。下は石川の投球と自身の投球を比較しながら、こう話した。
「(石川投手とは)タイプが周りから見たら違うかもしれないですし、体も自分は大きいのでそういう印象があるかもしれないですけど、やっぱりピッチャーは球速よりもまずコントロールだと思う。自分にはそういうところが足りていないので、やっぱり石川選手のそういうところを見て、コントロールが大事なんだなと。球速がなくてもコントロールで抑えられるんだなというのを学べたので、参考にしていきたいなと思いました」
183センチ87キロの大型左腕が見つけた自身の課題。お手本としたのは、ヤクルトが誇る小さな大エースだった。背番号は「019」を背負うが、偉大な背番号「19」に追いつくため、日々学ぶ意欲を忘れない。
「石井(一久)さんや石川選手もそうですし、ヤクルトで活躍されてきた左ピッチャーみたいに自分もなれるように、一日一日大事にしてやっていきたいと思っています」
膨らむ期待感――。野球に取り組む真摯な姿勢が感じられる18歳は、その真っすぐな思いで、ここまで育ててくれた両親へプロでの活躍を誓った。
「もっともっといい思いをさせてあげられるように頑張りたい」
プロ入りを果たしただけでは、もちろん終わらない。一日でも早く支配下選手となり、一軍で投げる姿を両親に見せる。そして、ツバメのエースとして輝く日を、神宮のファンは待っている。
取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)