チーム全体の力や運に左右されにくい「WHIP」
僅差のゲームの最後を締めくくる重要な役割を担っているクローザー。その個人成績というと、個人タイトルの指標にもなっているセーブ数に注目が集まりがちだ。今季、最多セーブ投手のタイトルに輝いたのは、セ・リーグがスアレス(阪神/25セーブ)で、パ・リーグが増田達至(西武/33セーブ)だった。
ただし、セーブ数を積み重ねられるか、あるいはそれ以前にセーブシチュエーションをつくれるかということについては、チーム全体の力や運にも大きく左右される。一方で、「1投球回あたりに許した走者の数」を表す「WHIP」は、基本的には個人の力によるものだ。
回の頭から1イニングだけを任されることが多いクローザーについては、「走者を出しても失点しなければ問題ない」という考え方もあるだろう。しかし、出塁を許さないに越したことはない。それこそ三者凡退であっさりと相手打線を退け、試合をビシッと締めくくってくれるクローザーほど安心感をもたらしてくれる存在はない。
そこで今季、2桁以上のセーブを記録した、各球団のクローザーにおける「WHIPランキング」を見てみたい。
▼ 2020年クローザーWHIPランキング
<※2桁以上のセーブを記録した投手>
【1】0.900 R.マルティネス(中) 40登板(40回)12与四球24被安打 2勝0敗7H21S 防御率1.13
【2】0.902 三嶋一輝(De) 48登板(47回2/3)13与四球30被安打 3勝1敗5H18S 防御率2.45
【3】1.01 森 唯斗(ソ) 52登板(51回1/3)13与四球39被安打 1勝1敗6H32S 防御率2.28
【4】1.02 フランスア(広) 53登板(55回)17与四球39被安打 2勝3敗7H19S 防御率2.45
【5】1.04 増田達至(西) 48登板(49回)10与四球41被安打 5勝0敗1H33S 防御率2.02
【6】1.05 スアレス(神) 51登板(52回1/3)19与四球36被安打 3勝1敗8H25S 防御率2.24
【7】1.13 益田直也(ロ) 54登板(52回)17与四球42被安打 3勝5敗5H31S 防御率2.25
【8】1.19 石山泰稚(ヤ) 44登板(44回2/3)11与四球42被安打 3勝2敗4H20S 防御率2.01
【9】1.23 デラロサ(巨) 35登板(31回2/3)16与四球23被安打 2勝0敗5H17S 防御率2.56
【10】1.38 秋吉 亮(日) 33登板(29回2/3)11与四球30被安打 1勝2敗4H12S 防御率6.37
【11】1.40 ディクソン(オ) 39登板(35回2/3)16与四球34被安打 0勝4敗5H16S 防御率3.28
【12】1.45 ブセニッツ(楽) 46登板(44回)18与四球46被安打 1勝4敗13H18S 防御率2.86
中日のAクラス入りの裏にあったR.マルティネスの台頭
意外にも、セ・リーグを制した巨人のデラロサは、WHIP1.23で全体では9位。ランクインしたセ・リーグの投手のなかでは最下位だった。
WHIPのリーグ平均は、セ・リーグが「1.33」、パ・リーグが「1.32」であり、デラロサの成績は決して悪い数字ではない。しかし、クローザーということを思えば、やはり少し物足りない。WHIPのほか、デラロサは防御率でもリーグ最下位だ。今季の巨人は、中川皓太ら他の中継ぎ陣、先発陣、野手陣などがクローザーの力量不足をカバーしてペナントレースを制した側面があることも、また事実だろう。。
パ・リーグは、クローザーのWHIPとペナント順位の間にしっかり関連性があるようだ。リーグ王者であり4年連続の日本一に輝いたソフトバンクの森唯斗は、WHIP1.01で全体3位。パ・リーグの投手のなかではトップだ。
また、パ・リーグでBクラスとなった日本ハム、オリックス、楽天の各クローザーは10〜12位と下位を占めている。彼らはセーブ数や防御率でも下位にとどまっており、クローザー不在がチームの成績、ペナントレースの順位にも影響を及ぼしていると見ることができる。
対照的に、クローザーの定着がチームの好成績につながったといえそうなのが中日だ。21セーブを挙げたR.マルティネスは、WHIP0.900で堂々のランキングトップ。セーブ王の座はスアレスに譲ったが、WHIPの他、ただひとり1点台の「1.13」という防御率も他を圧倒している。
ここ数年の中日には、それこそチームやファンに安心感をもたらせる絶対的守護神といえるクローザーがいなかった。中日が8年ぶりにAクラスに返り咲いたその裏には、最優秀中継ぎ投手賞を手にした祖父江や福と共に、クローザーとしてのR.マルティネスの奮闘があったと言えるだろう。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)