沢村賞投手が「ベストナイン」選外
12月17日に開催されたプロ野球・2020年の総決算「NPB AWARDS 2020 supported by リポビタンD」。今季のプロ野球を彩ったスター選手たちが一堂に会し、各タイトルの表彰が行われた。
この日発表される最優秀選手賞、いわゆるMVPはセ・リーグが菅野智之(巨人)、パ・リーグは柳田悠岐(ソフトバンク)に決定。これについては順当な結果だったと言えるが、セ・リーグの「ベストナイン」の発表に関してはちょっとした議論も起こった。
セ・リーグの投手部門で選出されたのは、リーグMVPの菅野智之。有効投票数313票のうち201票を獲得しての快勝だったが、今季はこの菅野を押さえて沢村賞を受賞した男が同リーグ内にいる。中日の大野雄大である。
「沢村賞」と言えば、投手の表彰の中で最も権威のあるものというイメージも強く、メジャーリーグの「サイヤング賞」にならって“投手最高の栄誉”と表現されることもしばしばある。しかし、それほどの投手がベストナインの投票では菅野の約半数(111票)の得票に留まったのだ。
この件については、セ・リーグの二塁手部門でシーズン終了後に戦力外通告を受けた吉川大幾に3票が投じられていることが明らかになるなど、無記名による記者投票の是非が問われていたこともあって、ネット上を中心に様々な議論を呼んだ。
しかし、過去を振り返ってみると、「沢村賞」に輝きながら、「ベストナイン」に選ばれなかった投手も少なくない。今回はその例を紹介しながら、2つのタイトルについて考えてみたい。
明確な基準の有無
ここでは、2000年以降に沢村賞を受賞した投手と、ベストナインの投手部門で選出された選手が異なる場合のそれぞれの選手たちの成績を調べてみた。
<2009年>
▼ 沢村賞
涌井秀章(西武)
[成績] 27試 16勝6敗 防2.30
☆最多勝
▼ ベストナイン
ダルビッシュ有(日本ハム)
[成績] 23試 15勝5敗 防1.73
☆最優秀防御率・最高勝率
<2012年>
▼ 沢村賞
攝津 正(ソフトバンク)
[成績] 27試 17勝5敗 防1.91
☆最多勝・最高勝率
▼ ベストナイン
吉川光夫(日本ハム)
[成績] 25試 14勝5敗 防1.71
☆最優秀防御率
<2016年>
▼ 沢村賞
クリス・ジョンソン(広島)
[成績] 26試 15勝7敗 防2.13
▼ ベストナイン
野村祐輔(広島)
[成績] 25試 16勝3敗 防2.71
☆最多勝・最高勝率
沢村賞投手とベストナイン投手を比べてみると、個人タイトルの獲得数は沢村賞投手が3つに対し、ベストナイン投手が5つ。意外にもベストナインを獲得した投手のほうがタイトルを獲得していることがわかる。
比較をしていく前に、改めて沢村賞について認識を正しておくと、NPBが発表の際などに用いている正式な表現は「プロ野球創設期の名投手・故沢村栄治氏を記念し、そのシーズン最も優れた先発完投型の本格派投手に贈られる」もの。“最も優れた先発完投型の本格派投手”というところがポイントで、実は“投手最高の栄誉”という紹介はされていない。
その中で、沢村賞には選考委員会が設けた登板数や勝利数などの7つ選考基準があり、それらをクリアした数、とくに完投数が問われる傾向にある。
一方のベストナインは記者による投票なので、こちらは明確な基準がない。それだけに、沢村賞の選考基準をクリアしていなくても、手にしたタイトルの数など、より強いインパクトを残した投手が票を集めやすい傾向にある、ということなのだろう。
チームの成績も重要に…
実際の例を挙げながら比較して見ると、2016年のセ・リーグベストナイン投手である野村祐輔は16勝の勝率.842で最多勝と最高勝率のタイトルを獲得したが、完投数はわずか1。投球回数も152.2イニングしか投げていなかった。
一方、勝利数や勝率では野村を下回ったものの、3完投の180.1イニングといずれも野村を上回ったジョンソンが沢村賞を受賞している。
そしてもうひとつ、重要なのがチームの順位である。
沢村賞投手の所属チームがペナントレースで1位だったのは、2000年以降に受賞した延べ20人中8人と半分にも満たなかったが、ベストナインを獲得したセ・パ両リーグの投手は延べ42人中25人にのぼる。セ・リーグに限れば、延べ21人中16人と、その数は実に7割以上になる。
まとめると、基本的に沢村賞受賞投手とベストナイン投手はイコールとなりやすい。しかし、それ以上に沢村賞は独自の選考基準が重視され、ベストナインは印象度に大きな影響を与えるチーム成績も加味されやすくなる。
このことを頭の片隅に置きつつ、来年も記者の頭を悩ませるような優れた投手が数多く出てくることを期待したい。
文=福嶌弘(ふくしま・ひろし)