「育成出身者」が欠かせない存在に
プロ野球の世界で年々存在感を増している、「育成出身」の選手たち──。
ソフトバンクでは千賀滉大や石川柊太、甲斐拓也に周東佑京などが今や中心選手となり、その他の球団でも松原聖弥(巨人)に和田康士朗(ロッテ)、大盛穂(広島)などがチームにとって欠かせない存在になりつつある。
そこで今回は、昨年のドラフトで育成選手として指名された49人の中から、いち早く支配下登録を勝ち取って一軍戦力になる可能性が高いのは誰なのか、探ってみたい。
潜在能力が高い大学生の3投手
まず、投手では宇田川優希(仙台大→オリックス育成3位)、赤上優人(東北公益文科大→西武育成1位)、水上由伸(四国学院大→西武育成5位)の大学生右腕3人を挙げたい。
宇田川は恵まれた体格から投げ下ろす140キロ台後半のストレートと、腕を振って投げられるスライダー・フォークが武器の大型右腕。4年秋のシーズンにもうひとつ調子が上がらず育成での指名となったが、スケールの大きさは抜群で、一時は上位指名候補とも言われていただけのポテンシャルの持ち主だ。
宇田川本人も「プロでは抑えを目指したい」と話しているように、リリーフとしての適性が高いように見える。2年時は14試合すべてリリーフで登板し、19回1/3を投げて38奪三振という圧巻の数字を残している。アウトステップするフォームでバランスが崩れやすいのは課題だが、ボール自体の力は申し分ない。チームの投手陣は若手の有望株は多いものの、安定したリリーフ投手は少ないだけに早くからの抜擢も期待できるだろう。
赤上と水上の2人はともに野手出身で、大学から本格的に投手に転向したという共通点を持つ。
赤上は全身を大きく使ったフォームできれいに真上から腕が振れ、上背以上に角度のあるストレートは150キロを超えることも珍しくない。落差の大きいカーブも操り、上手く緩急をつけてストレートをより速く見せられるのも長所だ。
コントロールは少しアバウトで、クイックの速さがないなど細かい部分の課題はあるものの、ボールの力は十分あるだけに早くから高いレベルで試してもらいたい素材だ。
水上は大学2年まで野手で、リーグ戦で首位打者を獲得するほどの選手だったが、3年から投手に専念して大きく才能が開花。少し重心が高く野手時代の名残を感じるフォームだが、大きく目立つような欠点はなく、4年秋には150キロを計測するまでにスピードアップした。
130キロ前後のスライダーと130キロ台後半のカットボールをしっかり投げ分け、変化球主体で打ち取る投球もできる。調子の波は課題だが、コントロールも決して悪くないだけに、早くから二軍の主戦となれる可能性もあるだろう。
左腕で注目される選手は…
大学卒の左腕では佐藤宏樹(慶応大→ソフトバンク育成1位)の素材の良さが光るが、ドラフト直前にトミー・ジョン手術を受けたこともあって今年はリハビリとなる。
佐藤以外の左腕では、岩田将貴(九州産業大→阪神育成1位)と中道佑哉(八戸学院大→ソフトバンク育成2位)の2人が面白い。
岩田は右足を一塁側に大きく踏み出してから体をひねって投げるサイドスロー。プロでも見ないようなボールの角度が持ち味で、130キロ台前半のスピードでも打者は差し込まれることが多い。左肘の手術から復帰して間もないため無理は禁物だが、左のリリーフとして面白いタイプだ。
中道も岩田のような変則ではないが、サウスポーらしいボールの角度が持ち味。スピードは140キロ台前半でもボールの出所が見づらく、スライダーとチェンジアップの対になる変化球も上手く操って三振を奪う。プロではまだまだ細身だが、上手く特徴を生かしてまずは二軍で結果を残したいところだ。
独立リーグ出身者も負けてはいない
独立リーグ出身の投手では、石田駿(栃木ゴールデンブレーブス→楽天育成1位)と戸田懐生(徳島インディゴソックス→巨人育成7位)の2人を挙げたい。
石田は九州産業大では一度も公式戦登板がなかったものの、栃木で大きく才能が開花。サイドから投げ込むストレートはコンスタントに150キロ前後をマークし、その数字以上に打者の手元での勢いを感じる。アバウトなコントロールには課題が残るが、その球威をアピールして中継ぎ陣の一角を狙いたい。
戸田は東海大菅生で2年夏に甲子園出場を果たしたものの、その冬に退学して徳島に入団。1年目はリリーフ、2年目は先発でいずれも抜群の成績を残し、NPB入りをつかんだ。170センチと小柄だが、全身を大きく使う躍動感のあるフォームで、コンスタントに145キロを超えるスピードと鋭く落ちるフォークが光る。巨人は支配下と育成合わせて10人の投手を指名しているが、独立リーグで2年続けて結果を残してきたという点は大きなアドバンテージである。今年で21歳とまだ若さがあるのも魅力だ。
野手は全体的に将来性を重視しての指名が多かったが、そんな中で支配下に最も近いと見られるのが捕手の松井聖(信濃グランセローズ→ヤクルト育成3位)だ。
中部大を3年時に退学して四国アイランドリーグの香川で2年間プレーをし、2019年からBCリーグの信濃に移籍。大学と香川では外野手としての起用だったが、信濃では1年目から正捕手に定着して2年連続で攻守ともに見事な成績を残した。
イニング間のセカンド送球では安定して1.8秒台をマークし、コントロールの良さも光る。打撃も下半身が強く、広角に打ち分ける上手さがあるのも長所だ。今年で26歳という年齢を考えると1年目から勝負のシーズンとなるが、捕手がなかなか固定できていないチーム事情もあるだけに、キャンプから積極的にアピールしたいところだ。
育成選手は3年間で支配下登録を勝ち取らないと、一度自由契約となるルールがあり、一軍への道はなかなか険しいものがあるが、昨年も育成6位の大下誠一郎(オリックス)が9月に支配下登録されると、一軍初打席でいきなりスリーランを放つという見事なデビューを飾っている。
今年も大下のように「育成出身のルーキー」から新たなスターが誕生することを期待したい。
☆記事提供:プロアマ野球研究所