「一発はない」と思わせてくれる安心感
「見ていて安心感のある投手」というと、どんな投手になるだろうか。失点しないことこそが投手の最大の目的ということを思えば、もちろん防御率が優れていることも重要だ。また、失点しないためには出塁を許さなければいいのだから、「1投球回あたりに許した走者の数」を示すWHIP(Walks plus Hits per Inning Pitched)の数値も重要な指標となるだろう。
それらとは別に、「被本塁打率」が低いことも「見ていて安心感のある投手」のひとつの要素といえる。首脳陣はもちろん、ファンにとっても「大量失点する可能性が低い」ということは、安心感を与えてくれる。
そこで今回は、昨季の両リーグ被本塁打率ランキングを見ていこう。ここでの被本塁打率とは、「9投球回あたりの被本塁打数」とする。以下は、2020年シーズンに投球回が100回以上に達した投手、すなわち主に先発を担った投手(セ:11人/パ:15人)における被本塁打率ベスト10だ。
【2020年セ・リーグ被本塁打率ランキング】※100投球回以上
1位 青柳晃洋(神)0.30(被本4/120.2回) 21試合7勝9敗 防御率3.36
2位 森下暢仁(広)0.44(被本6/122.2回) 18試合10勝3敗 防御率1.91
3位 菅野智之(巨)0.52(被本8/137.1回) 20試合14勝2敗 防御率1.97
4位 九里亜蓮(広)0.76(被本11/130.2回) 20試合8勝6敗 防御率2.96
5位 大野雄大(中)0.79(被本13/148.2回) 20試合11勝6敗 防御率1.82
6位 西 勇輝(神)0.91(被本15/147.2回) 21試合11勝5敗 防御率2.26
7位 戸郷翔征(巨)1.00(被本12/107.2回) 19試合9勝6敗 防御率2.76
8位 大貫晋一(De)1.03(被本13/113.2回) 19試合10勝6敗 防御率2.53
9位 遠藤敦志(広)1.09(被本13/107.0回) 19試合5勝6敗 防御率3.87
10位 秋山拓巳(神)1.37(被本17/112.0回) 18試合11勝3敗 防御率2.89
【2020年パ・リーグ被本塁打率ランキング】※100投球回以上
1位 千賀滉大(ソ)0.30(被本4/121.0回) 18試合11勝6敗 防御率2.16
2位 山本由伸(オ)0.43(被本6/126.2回) 18試合8勝4敗 防御率2.20
3位 バーヘイゲン(日)0.56(被本7/111.2回) 18試合8勝6敗 防御率3.22
4位 美馬 学(ロ)0.66(被本9/123.0回) 19試合10勝4敗 防御率3.95
5位 髙橋光成(西)0.67(被本9/120.1回) 20試合8勝8敗 防御率3.74
6位 石川柊太(ソ)0.73(被本9/111.2回) 18試合11勝3敗 防御率2.42
7位 有原航平(日)0.75(被本11/132.2回) 20試合8勝9敗 防御率3.46
8位 東浜 巨(ソ)0.76(被本10/119.0回) 19試合9勝2敗 防御率2.34
9位 小島和哉(ロ)0.95(被本12/113.1回) 20試合7勝8敗 防御率3.73
10位 田嶋大樹(オ)1.03(被本14/122.1回) 20試合4勝6敗 防御率4.05
投手3冠に加えて被本塁打率も
セ・リーグのトップとなったのは被本塁打率0.30の青柳晃洋(阪神)。セ・リーグで規定投球回に達した投手6人における防御率ではワーストだったことを思えば、少し意外にも感じられる。ただ、チームが広い甲子園を本拠地にしていること、変則フォームから繰り出される荒れ球に対応する難しさを思えば、うなずける順位なのかもしれない。
しかも、0.30という数字は、チームのエースである西勇輝や、甲子園と同じく広いナゴヤドームを本拠地とする中日の大野雄大の数字に大きく差をつけるもの。球場の広さだけが理由ではないだろう。まだまだ制球に課題は残しているが、3試合完投してようやく1本塁打を浴びるかどうかという数字は立派。この数字を防御率やその他の成績にもつなげていけるか注目だ。
一方、パ・リーグのトップは千賀滉大(ソフトバンク)。0.30という被本塁打率は青柳と同じだが、小数点以下を見ていくと、青柳の「0.2983」に対して「0.2975」の千賀が12球団トップとなる。昨季は最優秀防御率、最多勝、最多奪三振の投手3冠に輝いた千賀だけに、まさに順当。千賀こそ、12球団ナンバーワンの「見ていて安心できる投手」だと言えるのかもしれない。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)