白球つれづれ2021~第9回・MLBとNPBの女性進出
パワハラ、モラハラ、ジェンダーイコール。今年の国内スポーツ界は大きな問題を抱えてスタートした。
発端は2月11日に明らかになった東京五輪組織委員会・森喜朗会長の辞任表明だった。その直前に「女性の入る会議は長くなる」と発言。これが女性蔑視や女性差別と批判を浴びたためだ。五輪憲章には「いかなる差別もこれを排除する」とうたわれているのだから、時代錯誤も甚だしい。
結局、紆余曲折の末、1週間後に橋本聖子氏が後任会長に就任して再スタートを切ったが、五輪まで半年近くの段階でのお家騒動は日本スポーツ界のお粗末ぶりを世界に露呈することとなった。
米球界の新たな動きと暗部
野球界に目を転じると、メジャーリーグ(MLB)では昨年来、女性進出の新たな動きが注目されている。
11月にマーリンズではK・アング氏がメジャー史上初の女性GMに就任。52歳の彼女は大学卒業後、ホワイトソックスのインターンで球界入り、ドジャース、ヤンキースや大リーグ機構で経験を積み、この数年は空きの出た球団のGM常連候補だったという。
今年に入ると、レッドソックスではⅤ・スミス氏が黒人女性初のマイナーリーグのコーチとして契約。ジャイアンツではマイナーの健康管理部門の女性コーチを昇格させて「大リーグ女性コーチ第1号」としている。
一方で、MLBの暗部も同時に表面化している。震源地はメッツだ。
今年の1月に女性記者へのセクハラを理由にJ・ポーター新GMを解雇。この調査の過程でR・エリス打撃コーチの女性職員へのセクハラも判明してこちらも解雇された。さらに19年までメッツの監督を務め、現在はエンゼルスの投手コーチであるM・キャロウェー氏も複数球団でのセクハラにより告発されてキャンプの参加停止処分に追い込まれている。
いずれにせよ、メジャーの世界で長く続いた男女差別やセクハラといった“病巣”が表面化して、歴史の転換点に立たされているのは間違いない。
日本球界での動きとこれから
では、日本の球界の現状はどうか? 女性の進出をプロ野球で見ると、1998年に新聞記者出身の高原須美子氏がセ・リーグ会長に就任。2015年にはDeNAの南場智子氏が女性初のオーナーに就いたが、現場レベルは皆無に等しい。昨年、オリックスが球団職員だった乾絵美氏をスカウトに抜擢した。彼女は元ソフトボールの金メダリスト、アマ球界での幅広い知識と人脈を買って登用されている。
日本の女子選手に活躍の場が少ないのは、高校野球からの規制の厳しさと無縁ではないだろう。小学、中学時代は男子に交じってプレーするのも珍しくないが、高校の野球部での活動は難しい。甲子園に至っては女子マネージャーが練習時にグラウンドで手伝うのも制止されたことがある。今では女子プロ野球が誕生して生涯スポーツとなりつつあるが、MLBのような女性コーチ誕生には、まだまだ長い年月が必要だ。
先日、西武の栗山巧選手がテレビのインタビューに答えて、女子ソフトボールのレジェンドである上野由岐子選手の野球に取り組む姿勢に感銘を受けたと語っていた。北京五輪で日本代表のエースとして金メダルを獲得。その後、ソフトボールは五輪種目から除外されて一時は「燃え尽き症候群」に悩みながらも復活して30代後半の今も東京五輪にすべてを懸けている。
この上野に関しては、一緒に自主トレを行ったことがある巨人・菅野智之投手も「学ぶべき点がたくさんある」と賞賛を惜しまない。
彼女が現役引退後、どんな道を目指すのかは知らない。指導者としての適性もわからない。しかし、こんな選手が日本プロ野球界第1号の女性コーチとして誕生したらどうだろう? いきなり、投手コーチが無理ならメンタル担当のコーチでもいい。
野茂英雄だって、イチローだって、不可能とされた道を開拓して今がある。上野がプロをコーチすることだって夢とばかりは言えないだろう。時代はもう、そこまで来ている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)