来日6年目、気が付けば“ドラゴンズ一家”に
日本人にはゆったりの高級セダンも、竜の主砲が乗り込むと少し小さく見える。2018年まで広島に所属し、マツダスタジアムへの自転車通勤で話題になったブラッド・エルドレッドがカープの愛され助っ人なら、中日では間違いなくダヤン・ビシエドとなる。
妻は国内で手術するなど難病と闘い、小学校5年生の長男・ジュニア君はドラゴンズアカデミーに入校したばかり。おまけに7歳の長女ダヤナちゃんは、球団のチアダンスチーム「チアドラ」のOGが主催するダンス教室に興味津々。今月上旬に見学を済ませ、チアドラキッズとしてのスタートを切る。ドラゴンズ一家の来日6年目の動向から、目が離せない。
愛車はクラウン「最高の車だね」
今季14年ぶりの中日復帰となった福留は、2007年限りで中日を退団。海を渡った。カブスからインディアンスへと移り、その次の所属先がホワイトソックス。そこで、ビシエドとレギュラー争いを繰り広げたのだ。
来日後は開幕から3戦連続本塁打でファンの心をガッチリ掴み、主砲の座を我がものとした。
2018年には最多安打と首位打者のタイトルを獲得。米国時代からのニックネームは、スペイン語で戦車を意味する「タンケ」。チーム内では気軽に「タンケ」、「タンケ」と呼ばれている。
2018年、ドラゴンズクラウン賞を獲得。協賛企業「愛知トヨタ」から「クラウンハイブリッドアスリートG」を贈られた。それが今の愛車となっている。
そんなビシエドにつたない英語で聞いてみた。
「日本のサラリーマン、英語だとオフィスワーカー?の目指す高級車がクラウンと呼ばれたこともあったんだ。乗り心地はどう?」
すると、「理解できるよ。最高の車だね。静かで安定しているよ」と大満足の様子を浮かべた。
息子がプレーし、娘が踊りで応援する未来も…?
母国キューバを亡命し、米国で勝負をかけ、安住の地を日本だと見定めた。昨季から怒濤の1年を過ごしている。
1年前、アナイス夫人が日本で手術を受けた。病名は国内約2万人の患者がいて国の難病指定を受ける「好酸球性副鼻腔(びくう)炎」。手術に立ち会い、日常生活を送るのは問題ない。一時は鼻で呼吸することができず、においも感じなかったのだという。
幼い子ども3人を抱えながら、異国の地での生活。家族で不安を共有しながら、親としては子どもの健やかな成長に安堵し、日々を積み重ねていく。コロナ禍とも向き合いながら、名古屋での生活を送っていた。
困難の先には、喜びが待っていたからうれしい。ビシエド・ジュニア君のアカデミー入校が決まった。
「息子がチームに興味を持ち、成長してくれるのは父親としてうれしい。選手としても、励みになります」
オフを中心に、愛息の所属する少年野球チームに顔を出していたビシエド。1つのボールを懸命に追い続ける子どもたちの姿に、スポーツの素晴らしさを感じていた。
加えて、娘がチアドラキッズとして新しいスタートを切る。順調なら親子竜戦士も夢じゃない。ジュニア君のプレーを、踊りで応援するのがダヤナちゃんになったとしたら…。そんな希望も膨らむ。
「そうなったら素晴らしいことだよね。息子、娘には期待したいよ」と、ビッグスマイルを浮かべた。
自身の調整も順調そのもの。3月9日の西武戦を皮切りに、出場5試合連続で安打をマーク。14日のヤクルト戦・16日の巨人戦はともにマルチ安打を記録しており、オープン戦の打率は.450まで上昇している。
昨季終盤、守備の際に左肩脱臼のケガを負ったが、すでに一塁の守備にも就いており、完全復活も間近。公私ともに絶好調な頼れる竜の主砲は、今年も一家そろったドラゴンズライフを楽しむ。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)