劇的な開幕サヨナラゲーム
3月26日(金)、ついに開幕したプロ野球の2021年シーズン。開幕戦から劇的なサヨナラゲームが飛び出すなど、早くも熱戦の連続となっている。
他会場の試合がすべて終了し、開幕日のラストゲームとなった東京ドームの巨人-DeNA。今季は同点の場合も9回打ち切りとなる特別ルールのため、泣いても笑っても9回裏がラストイニングとなる。そんな中、勝ちがなくなったDeNAも7-7の同点ながら守護神・三嶋一輝をマウンドに送ったが、“その時”は突然訪れた。
先頭で打席に入った代打の亀井善行が、1ボール・1ストライクからの変化球をジャストミート。打った瞬間にそれと分かる打球はライトスタンドへと突き刺さり、劇的な代打サヨナラホームラン。巨人が開幕戦を勝利で飾った。
決勝点が入った瞬間に試合も終了となるサヨナラゲームは、野球の醍醐味のひとつと言えるだろう。これまでにも、ミスタープロ野球・長嶋茂雄による「天覧試合でのサヨナラ本塁打」や、阪神・新庄剛志の「敬遠球サヨナラ打」など、球史に残る名場面が数多く生まれた。
だが、その一方で、サヨナラでゲームセット…と思いきや、まさかのアクシデントで幻と消えたという例も。今回はそんな珍事件を振り返ってみたい。
3連続ホームランで劇的勝利だったのに…
3連続ホームランで鮮やかな逆転サヨナラ勝ちのはずが、一転して同点で試合再開となったのが、1966年5月10日の大洋-阪神だ。
1-4とリードされた大洋は、9回裏の一死一塁から伊藤勲が左越え2ラン。たちまち1点差となると、次打者・重松省三も動揺するバッキーの3球目を左翼席に叩き込み、4-4の同点になった。
こうなれば、大洋は押せ押せムード。次打者・近藤和彦も2球目を流し打つと、高々と上がった打球は、左翼ポールに当たって跳ね返る。奇跡的な3者連続本塁打で鮮やかな逆転サヨナラ勝ち。大洋ベンチが歓喜一色に包まれたのは言うまでもない。
ところが、直後に阪神・杉下茂監督がベンチを飛び出し、松橋慶季球審に何やら抗議を始めるではないか。実は、バッキーが近藤和に1球目を投げたとき、ライトを守っていた藤井栄治の後ろにウイスキーの空き瓶が飛んできたのだ。危険を感じた藤井は手沢庄司右翼線審にタイムを要求し、手沢線審も「タイム!」とジェスチャーで伝えていた。
それを見ていた杉下監督は、ベンチから大声でマウンドに注意したが、連続弾を浴びてカッカしていたバッキーの耳には届かず、そのまま2球目を投じてしまったというしだい。
この間の事情を知らなかった松橋球審が手沢線審と協議し、明らかに投球動作の前にタイムがかかっていたことが確認された結果、近藤和のサヨナラ弾は無効になってしまったのだ…。
まさかの打ち直しとなった近藤和は投ゴロに倒れ、4-4で延長戦に突入。皮肉にも10回から登板した佐々木吉郎が山内一弘に決勝ソロを浴び、大洋は4-5で敗れている。
逆転サヨナラ3ランが幻に…
逆転サヨナラ3ランのはずが一瞬にして幻と消えてしまったのが、1967年7月19日の東映-近鉄だ。
3-5で迎えた9回裏、東映は大下剛史と是久幸彦の連打で無死一・二塁のチャンス。この場面で、白仁天が鈴木啓示の速球をジャストミート。夜空に高々と上がった打球は、起死回生の逆転サヨナラ3ランとなって、左翼席に着弾した。
ところが、喜び過ぎた白は一塁を回った後、勢い余って一塁走者の吉田正昭(=是久の代走)を追い越してしまった。打球の行方を確かめようとした吉田が、照明のライトが目に入り、ボールを見失っていたのも不運。「二塁を見たら大下がタッチアップしていた」ので、左飛と勘違いし、一塁へ戻ろうとしたところを、白に追い抜かれてしまったのだ。
この結果、白の一打はシングルヒット扱いとなり、試合は5-5の同点で延長戦に。そして、走者追い越しで試合の流れも変わり、東映は10回に1点を勝ち越されて無念の敗戦を喫した。
勝利のヒーローになるはずが、一転珍プレーの主役になった白は試合後、「何て間抜けなんだろう。どうなってんのかな…。吉田!オレが悪かったんだ」と、額をロッカーの壁にぶつけて悔しさをあらわにしていた。
ペナントの行方を左右した幻の本塁打
サヨナラホームランの判定が覆る珍事件が起きたのが、1992年9月11日の阪神-ヤクルトだ。
3-3の同点で迎えた9回裏、阪神は二死一塁で八木裕がフルカウントから左中間に大飛球を放つ。打球がスタンドに入ったのを確認した平光清二塁塁審は右手を頭上でグルグル回し、「ホームラン」のジェスチャー。劇的なサヨナラ2ランに、八木は万歳しながらベースを回り、スタンドの阪神ファンも「これで(ヤクルト、巨人と)同率首位や!」と熱狂した。
一塁ベンチ前にはお立ち台も用意され、八木のヒーローインタビューが行われようとしていたところ、そんなお祭りムードの真っ最中に、ヤクルト・野村克也監督がベンチを飛び出した。
「フェンスのラバー上部に当たってスタンドに入った」。激しい抗議の末、他の審判も「入っていない」と指摘すると、平光塁審は一転誤審を認め、これをエンタイトル二塁打に訂正した。
当然、阪神・中村勝広監督は収まらない。「一番近いところにいた彼(平光塁審)が判定を下したわけでしょ。ホームランとした時点でゲームセットでしょ。それを簡単に(覆すなんて)…」と口角泡を飛ばし、37分間にわたって抗議。八木が打ったとき、一塁走者のパチョレックはスタートを切っていたので、エンタイトルと判定されなければ、サヨナラのホームを踏んでいたはずだった。阪神にとっては、“最悪の判定”としか言いようがない。
だが、「(審判団で)協議した結果」と却下。連盟への提訴を条件に、二死二・三塁で試合再開。次打者・新庄の四球で満塁となったが、久慈照嘉が中飛に倒れ、スリーアウトチェンジ。サヨナラのチャンスを逃した阪神は、延長15回、史上最長6時間26分を経て3-3の引き分けという、まさに骨折り損のくたびれ儲けに終わった。
この負けに等しい引き分けが尾を引き、同年の阪神はヤクルトに2ゲーム差で巨人と同率の2位。サヨナラ勝ちばかりでなく、7年ぶりVも幻と消えている。
まさに天国から地獄へ真っ逆さま…。しかし、これだから野球は面白い。今年もこのような“珍事”が見られるだろうか、楽しみでもある。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)