原石はひとつだけじゃない
いつだって見る者は“未知”な存在にロマンを感じ、夢を乗せてきた。
怪物・佐藤輝明が注目を集める2021年の阪神タイガースにあって、飛躍への“息吹”を感じるダイヤの原石は、何も1つだけでない。ここでは、次代の甲子園の主役になり得る有望株をピックアップしていく。
#51 中野拓夢(24)| 内野手 | 右投左打
抜てきされた一軍キャンプでは序盤の実戦で守備のミスが目立ったものの、打撃で挽回。2月は11試合に出場し19打数7安打の打率.368をマークし、二遊間のレギュラー争いに参戦した。
社会人出身の24歳にとって幸運だったのは、臨時コーチとして招聘された川相昌弘氏の存在だろう。
連日、早出特守など個別練習で守備の「極意」を吸収。送球の際に投げ急いでしまう癖の修正にも取り組み「自分のモノにしていきたい」と刺激的な時間を振り返った。
二遊間をカバーでき、木浪や糸原の状態次第では開幕後、スタメンのチャンスが巡ってくる可能性も十分ある。
#63 板山祐太郎(27)| 外野手 | 右投左打
6年目の板山祐太郎は猛然の“追い込み”でキャリア初の開幕一軍をもぎ取った。
3月に二軍から昇格を果たすと、限られた出場機会でアピール。オープン戦最終戦でも佐藤輝の欠場でスタメン出場し、右翼守備で好守を連発するだけでなく、打撃でもオリックス・山岡泰輔から三塁打を放った。
内外野を守れるユーティリティーとして出場機会は例年以上に増加しそうな予感…。歳下も増えてきたチームの中で意地を見せたい。
#69 石井大智(23)| 投手 | 右投右打
投手陣では、こちらもルーキーの石井大智を挙げないわけにはいかない。
キャンプでは序盤から精力的に投げ込んで仕上がりの早さを見せつけると、マウンドでも躍動。150キロに迫る直球に加え、勝負球であるシンカーも多投。右のオーバーハンドでは使い手のいない「希少性」に着目して習得を決断したという“宝刀”はプロでも通用する手応えを得た。
開幕一軍どころか、ロベルト・スアレスや岩崎優、岩貞祐太とともに勝利の方程式入りするプランも浮上。
「シーズンを通して変化球のキレとかまっすぐの質を向上させるためにはどうすればいいのか、試行錯誤してやっていきたい」
本人の意識も高く、1年目から一軍の戦力となってのシーズン完走を狙う。
#27 伊藤将司(24)| 投手 | 左投左打
1年目から開幕ローテを手中に収めたのは、ドラフト2位の伊藤将司。
グラブをはめた右手を大きく掲げる独特のフォームから、多彩な変化球を操ってゴロを量産するスタイルをプロでも貫く。チェン・ウエインが調整遅れで二軍降格となったことで、先発陣では唯一の左腕という面でも首脳陣の期待は高いはずだ。
入団以来、1年目からの10勝を目標に掲げる背番号27。
「緊張とか、周りからも期待をされるので、自分の首を絞めずに楽しんで投げられたら良い」
浮き足立つことなく、大舞台を鋭い視線で見据えているのも頼もしい。
#38 小幡竜平(20)| 内野手 | 右投左打
即戦力組だけではない。牙をとぐ若虎たちの鼻息も荒い。
高卒3年目を迎えた小幡竜平は、次代の遊撃レギュラーとして評価が高いプロスペクト。昨年は一軍も経験し、プロ初安打も放った。
強肩を武器にした守備力も伸びしろがあり、打撃の面においても、昨秋のみやざきフェニックス・リーグでは平田勝男二軍監督の意向で1番に固定。打席での粘りや、出塁への意識を打席で高めることに時間を費やし、濃密な時間を送った。
入団3年目の20歳でも、早すぎることはない。守備固めや代走でまずは一軍の戦力として定着していきたい。
#67 髙寺望夢(18)| 内野手 | 右投左打
二軍キャンプで目立った活躍を見せた高卒ルーキー・髙寺望夢の成長曲線も見逃してはいけない。
走攻守揃った内野手で3月21日のウエスタンリーグのソフトバンク戦では3試合目にして公式戦初安打初盗塁をマーク。1年目は同リーグでの「打率3割」「15盗塁」をノルマに設定するなど、意識は高い。
二軍では小幡、さらに一軍では木浪や糸原を追いかける存在として、実戦でもまれながら自力をつけていきそうだ。
#36 浜地真澄(22)| 投手 | 右投右打
5年目の浜地真澄は、一軍の先発陣に有事があった際、真っ先に昇格候補に挙がるだろう。
ワインドアップから無駄のない投球動作で伸びのある直球を投げ込み、2019年には3年目にして開幕ローテーション入りも果たした。
今年1月にはソフトバンクの千賀滉大と沖縄・宮古島で約2週間の合同自主トレ。球界最高峰に君臨する右腕と過ごした時間は見える“景色”を変えた。
「意識から何からすべてにおいて、昨年まで何をしていたんだろうっていうくらい質が違っていた。自分をしっかりと知ることを千賀さんには教えられました。知らないと何もできない、知ることでどんどん次にやることが増えてくるからと」
俯瞰の視線で自らに足りないもの、必要なものが明確にした。
体重はオフシーズンで5キロ増量。二軍とは言え、今春の実戦で痛打される場面は見られない。
“千賀の言葉”を胸に、たくましくなった姿で一軍の舞台に帰ってくる。
開花への道を試行錯誤しながら歩んでいく若手たち。
ペナントレースの裏で各々が織りなす小さなストーリーには活力がみなぎっている。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)