コラム

チームを背負う「6番目の男」 阪神・秋山拓巳の初登板に垣間見えた“自覚”

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阪神・秋山拓巳 (C) Kyodo News

今季は「6番目の男」としてスタート


 本人にとって、1つの白星以上の価値あるものを手にした。

 3月30日、敵地・マツダスタジアムでの広島戦。阪神タイガースの秋山拓巳は、開幕6戦目のマウンドに立った。




 「チームが3連勝して連敗していたんで、そこを一番気をつけたというか。3連敗するわけにはいかなかったというのは強かった」

 開幕シリーズでヤクルトに3連勝。しかし、弾みをつけて乗り込んだ広島では、初戦から連敗とチームは苦境に立たされていた。

 仮に3戦目も落とせば、貯金を吐き出すだけでなく、勢いも一気に削がれてしまう…。ローテ順では最後尾でも、「6番目の男」に課された任務は大きい。強い自覚を胸に、昨季11勝をマークした右腕は自身の初登板に臨んだ。



自分から野手に声かけ


 序盤から落ち着いていた。

 意気込みが力みに変わってもおかしくない場面でも、丁寧に変化球を低めに集め、力で押し込む所は直球を選択。ピンチどころか、5回まで1人の走者も許さないパーフェクトピッチ。3回までにもらった4点のリードをしっかり守った。


 まだまだ前半を終わっただけとはいえ、「完全投球」「無安打」の事実は、当然ながら本人が一番分かっていたはずだ。こういう状況では、ベンチの選手は気を遣って投手に声をかけない、というのはよく聞くが、この日は違ったようだ。

 「4回に気づいて、滅多にないことだったんで、自分から野手には“気にすんなよ”という話はしましたね」

 当日、バックを守っていたのは、ジェリー・サンズを除けば全員が自身より歳下、もしくは同い歳だった。声をかけやすいメンバーだったとはいえ、冷静に広い視野で戦況を捉えていたことがうかがえたし、快記録よりも、何よりこの夜の勝利こそが大事なんだと言い聞かせているようにも感じた。


 6回。先頭のケビン・クロンに左前に運ばれ、記録は消滅。7回には2点を失って、この回限りでマウンドを降りた。

 「状態は良くなかったですけど、何がダメというのもなかったんで。梅野もうまくリードしてくれたし、まんべんなく投げられたのは良かった」

 試合後の表情には「7回2失点」「今季初勝利」以上の充実感がにじんでいた。


チームを引っ張る立場として


 実はこんな場面もあった。

 3回無死一塁、秋山は打席で犠打を失敗。流れが変わりかねないミスを、2番に入っている糸原健斗が一死一・二塁から右翼への3ランを放ち、帳消しにしてくれた。

 「糸原がああいう風にカバーしてくれたんでしっかり投げられて良かった」


 キャンプ中から投手キャプテンの岩貞祐太ら同世代の面々と先頭に立って、若手に助言を送り、チームの良質な雰囲気作りの醸成に注力してきた。内野陣とのコミュニケーションもそうだ。

 「自分が声を出したり、アドバイスすることでチームが良くなると思ったので。今年のキャンプは意識しました」
 
 自ら前に出て仲間の緊張をほぐし、苦しい時には後輩がバックアップしてくれた。

 完投でも無失点でもない90球でも、噛みしめられる白星。プロ12年目を迎えた背番号46が、チームとともに幸先の良いスタートを切ったことは間違いない。


文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)
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