第15回:「未来のエース」がつかんだ1勝
「本人の中では1勝は嬉しいかもしれないですけど、納得はしていないでしょうし、また次ですね。どういう結果が出るか楽しみにしています」
ヤクルトの奥川恭伸が、4月8日の広島戦(神宮)で待望のプロ1勝を挙げた。試合後、高津臣吾監督は奥川の心情をこう察しながら、次回の登板にさらなる期待を寄せた。
昨季の最終戦で一軍初登板を果たしてから3試合目。白星はつかんだものの5回10安打5失点。初回に4失点されたが、その裏に打線がすぐに同点に追いついてくれた。勝ち越しを許しても今度は逆転に成功。試合後、奥川は「野手の皆さんには感謝しかない」と述べた。
「立ち上がりは丁寧にいこうという気持ちが強くて腕を振れていなかった」と反省点を挙げた。それでも、雷雨で中断があったにも関わらず「気持ちを切らさずに投げられたのは良かった」と及第点も口にした。
「先輩たちが何度も追いついてくれて勝ち越してくれて、その気持ちにのせられて4回、5回はしっかりと腕を振ることができたと思います」
打線は一丸となって奥川を盛り立てた。その姿勢を見て、ある選手が言った言葉をふと思い出した。
「球団の宝だと思うし、順調に伸びてほしい選手。みんなでバックアップしたい」
昨年1月、戸田球場での新人合同自主トレにプロ1年目の奥川は参加。そこに居合わせていた小川泰弘が、こんな言葉を残している。
チームを代表する投手に成長してほしい。思いは野手陣にも共通しているだろう。
この試合の前日に決勝打を放った山崎晃大朗は、奥川に「何としても勝ちをつけてあげたい」という思いを口にし、4回のソロ本塁打を含む4安打と活躍。西浦直亨も3回の同点打を含む3安打猛打賞と気を吐いた。
エースと呼ばれる存在にはなりたい
高津監督は奥川の初勝利について「1歩踏み出したに過ぎないと思います」と語った。
「間違いなくエースに育てなければいけないし、間違いなくエースになってもらわなければ困るのが奥川だと思っています。そのために一歩踏み出したのだと思いますし、また次の一歩、そしてまた次の一歩と楽しみに期待しています」
初めて参加したドラフトで奥川を引き当てた指揮官は、背番号11が「未来のエース」へと成長していく過程を疑わない。奥川本人も「今度は自分の力でチームを勝たせられるように」と力強い。
「エースと呼ばれる存在にはなりたいと思います」。見据える先には、チームを勝たせるエースとしての姿がある。20歳を迎えた右腕がこれからどんな未来を築いていくのか楽しみだ。
取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)