「投手以外」は全ポジションを制覇
ホークスにはユーティリティープレーヤーがたくさんいる。高く立ちはだかるレギュラーの壁に挑むため、多くの若手選手が複数ポジションに挑戦している。
たとえば、育成から大ブレイクした周東佑京は多くの試合で二塁手として出場しているが、三塁や遊撃、外野を務めることもある。
栗原陵矢も本職は捕手ながら、外野手として台頭。昨季キャリアハイの118試合に出場し、日本シリーズではMVPを獲得した。
それまでの栗原といえば、第3捕手としてベンチで試合を見守るか、二軍でアピールする時間が長かった。
ところが、1枠しかない捕手のポジションに拘らず、がむしゃらに取り組んできた結果、主に外野手として一軍レギュラーの座を掴み取ったのだった。
そんな栗原に負けじと、今年こそ一軍デビューをと燃えている選手がいる。球団イチのユーティリティープレーヤー・谷川原健太だ。
谷川原は入団6年目で、栗原と同じく捕手登録の選手。彼もファームで複数ポジションに挑戦している一人だが、ここ1~2年で“投手以外”の全てのポジションを実戦で経験済み。ここまで万能な選手は、彼以外にいないのではないだろうか。
「とにかく打てれば使ってもらえるかもしれない」と、昨季の栗原の活躍は悔しくもあったが励みにもなった。希望の光を信じて、黙々とファームで汗を流している。
“タニキャノン”が紡いだ縁
谷川原の内野守備に関して、松山秀明三軍内野守備走塁コーチは「経験値は少ないけど上手。器用だし、足も速いから可能性を秘めている」と、内野手としてのポテンシャルの高さに太鼓判を押す。
俊足を生かし、右に左に軽快なフットワーク。特に二塁の守備では、難なくこなすどころか幾度となく好プレーで魅了してくれた。
外野守備にも定評がある。4月9日のウエスタン・広島戦。今季初めて右翼手として出場すると、強烈な“タニキャノン”を発動させ、ファンを沸かせた。
6回の広島の攻撃。無死一塁から小園海斗が放った右前打で、一塁走者の中村奨成は一気に三塁を陥れようとした。そこに襲い掛かったのが谷川原だ。ノーバウンドの低弾道送球を三塁ベース上低めのベストポジションにピシャリ。アウトにこそならなかったが、このレーザービームに球場はどよめき、観客から溢れんばかりの拍手が送られた。
私もこの日、タマスタ筑後で試合を観戦していた一人だが、イチローや新庄剛志と言ったレーザービームの名手をも彷彿させる凄いプレーだった。
すると、その新庄氏が、自身のインスタグラムにこのプレーを用いて投稿していた。
「僕が今現役選手を見た中でこの子が一番肩が強い!久し振りに特Aの肩を見た!」とスーパースターも大絶賛。その投稿を見た谷川原は喜びつつも、「普通に投げたつもりでした」と周囲の反響に驚いたという。
新庄氏にはインスタグラムを通してお礼を伝えた。すると、新庄氏自身のかつてのプレー動画などを交えながら、細かいアドバイスをくれたというのだ。
新庄氏がこれまで数々の難しいプレーをしてきたのだと、改めて感じたという谷川原。スーパープレーが結んでくれた素敵な縁が、モチベーションも高めてくれたに違いない。
▼ 新庄さんもビックリ!話題を呼んだ谷川原の「レーザーキャノン」
一軍昇格のカギは…?
任されたポジションを“難なくこなす”ではなく、どのポジションでも突出した守備力を見せてくれるのが谷川原の魅力。また、様々な位置で実戦経験を踏んだことが、本職・捕手としての自分も成長させてくれたという。
こんな逸材、他にいるだろうか…。一軍で勝負できる確かなものを着実に積み上げてきている。
あとは「とにかく打つ」ことだ。
元々は打撃センスを買われ、出場機会を増やすために複数ポジションに挑戦することとなった。しかし、ここまで打撃成績には多少の波があった。
藤本博史二軍監督に聞けば、一軍に上がるためには“確実性”を上げることが求められるという。
「2ストライクから粘れるし、積極性もある。栗原が一軍に上がるまでは同じくらい(の力がある)と思っていた。谷川原もキッカケさえ掴めたら…」と藤本監督。
栗原は先にキッカケを掴み、しっかりと結果を残してきた。谷川原もそのキッカケを掴むための準備は、充分整ってきたように見える。
あとは二軍でインパクトのある成績を残すのみ。
現在は「思うようにバットを出せている」と語るように、苦手としてきたタイミングの取り方にも手応えを感じている。春季キャンプで平石洋介打撃コーチのもと、ライトポールを目掛けて打つ練習をくり返した成果を実感していた。
俊足を生かした長打も期待できる上、パンチ力を見せつけるような大きな本塁打もある。今年こそキッカケを掴んで、一軍で勝負できるという姿を見せて欲しい。
多角的な経験を積み上げている唯一無二のユーティリティー選手。ニューヒーローの誕生を心待ちにしたい。
文=上杉あずさ