「革命を起こそう」がチームの理念
東海大相模(神奈川)の10年ぶり3度目の優勝で幕を閉じた今年の選抜高校野球大会。
「春はセンバツから」という言葉もあるように、今年のドラフト戦線が本格的に動き出す大会ということで、連日多くのスカウト陣が甲子園球場のネット裏に詰めかけていた。
一方で、2年ぶりに開催された晴れ舞台の裏で、甲子園出場が叶わなかったチームも夏に向けて動き始めている。
全国各地で春季大会が始まり、いよいよ夏の大舞台に向けた戦いがスタート。
今回は、神奈川県の新興勢力に現れた“快速右腕”を取り上げたい。
▼ 永島田輝斗(立花学園)
・投手
・180センチ/82キロ
・右投右打
<主な球種と球速帯>
ストレート:141~150キロ
カーブ:120~123キロ
カットボール:131~135キロ
フォーク:123~130キロ
☆クイックモーションでの投球タイム:1.24秒
1年生の秋から投手転向で早くも150キロ
神奈川県の西部、足柄上郡松田町にある立花学園。
過去に甲子園出場はなく、全国的な知名度はそれほど高くはないが、激戦区の神奈川において過去5年間で4度、県大会ベスト8に進出しており、近年着実に力をつけている学校のひとつである。
“革命を起こそう”というチーム理念を掲げているように、ボールの回転数計測やトレーニングの科学的なアプローチを積極的に行っており、そのことが選手のレベルアップに繋がっていることもあるだろう。
そんな立花学園にプロのスカウトからも注目を集めている本格派右腕がいるという話を聞き、3月31日に行われた千葉学芸との練習試合に足を運んだ。
その投手の名は永島田輝斗(3年)。
中学時代は捕手としてプレーしており、本格的にピッチャーの練習に取り組み始めたのは1年秋からとのこと。それからわずか1年後の昨年12月には147キロをマークし、冬が明けた3月23日には大台となる150キロに達している。
同じ時期に行われていた選抜高校野球で登板した全投手の最速が、畔柳亨丞(中京大中京)の149キロ。スピードに関しては、永島田が全国でトップクラスであることは間違いないだろう。
この日は初回に二塁打と四球で一死一・二塁のピンチを招いたものの、後続を抑えて無失点で切り抜けると、2回と3回は三者凡退。
4回には千葉学芸のプロ注目スラッガー・有薗直輝(3年/三塁手)にレフト前ヒットを打たれたものの、その後も落ち着いた投球で続く打者を打ちとり、4回を無失点で登板を終えた。
カットボールは高校生に見えないレベル
この日の最速は146キロと自己最速には及ばなかったが、初回からコンスタントに140キロ台中盤をマーク。
立ち上がりは少しコントロールが安定しない場面もありながら、与えた四球は初回の1個のみで、4回を投げてわずか46球とストライク先行で投げることができていた。
フォームでまず目につくのが、豪快な腕の振りだ。
少しテイクバックの動きは大きいものの、途中で引っかかるようなところがなく、高い位置からスムーズに腕を振り下ろすことができている。
また、左足を高く上げても、大きく姿勢が崩れることがなく、無駄に沈み込むような動きがないのも長所である。躍動感と打者に与える威圧感も申し分なく、右打者のアウトローに決まるストレートはなかなか踏み込むのが難しい。
さらに、130キロ台中盤のスピードで鋭く横に滑るカットボールは、高校生ではなかなか見ないレベルのボールだった。
投手に専念してまだ1年半ということで、カットボール以外の変化球は課題が残るとはいえ、現在はフォークの習得に取り組み、この日も何球かは良い落ち方をしているボールもあった。
もうひとつ頼れる変化球を確立することができれば、ストレートがさらに生きてくるだろう。
立花学園の躍進に期待大
志賀正啓監督に永島田について聞いたところ、本人の感覚に合ったものを積極的に取り組んできた結果、ここまでのレベルアップに繋がったとのこと。チームとしても、全体練習よりも個人練習に多く時間を割いているとのことだった。
永島田以外にも140キロを超える投手を複数揃えているほか、バッテリーを組む岩田優真(3年)もイニング間のセカンド送球で1.90秒前後のタイムをコンスタントにマークする強肩捕手。昨年夏の神奈川県代替大会でベスト8に進出したチームと比較しても、戦力的に充実している。
くわえて、トレーニング内容や日々の練習風景をSNSなどで積極的に拡散しており、まさに新しい時代の高校野球という雰囲気がチームに漂っている。
従来のような2年半の間に脇目も振らずにとにかく追い込み、ふるいにかけて勝ち残った選手がトップになるような環境ではなく、科学的な根拠と本人にマッチしたアプローチを実践するようなチームから、プロが注目する150キロ右腕が登場してきたことは非常に喜ばしいことだ。
この春の県大会では、3回戦で横浜に敗れてしまったものの、リベンジに燃える夏の活躍次第では、「永島田輝斗」と「立花学園」の名前が全国的に高い知名度を得ることも十分に考えられるだろう。
☆記事提供:プロアマ野球研究所