4月連載:予測不能な開幕~第5回・五輪余波?
新型コロナウィルスの感染再拡大を受けて、政府は3度目の緊急事態宣言を発出した。対象地域は東京、大阪、兵庫、京都の4都府県で期間は4月25日から5月11日までの17日間となっている。
これにより、プロ野球も該当地域を本拠地とする巨人、阪神、ヤクルト、オリックスの4球団と、東京ドームで主催試合を行う日本ハムが無観客試合を余儀なくされた。当初予定されていた24試合のうち8試合は延期とされたため、18試合が無観客試合となる。
プロ野球界では、この緊急事態を前に、23、24日の両日、臨時の実行委員会が開かれている。それ以前には「宣言イコール無観客というようなジャッジは控えていただきたい」と、政府の政策に異議を申し立てていた斉藤惇NPBコミッショナーも、最終的には政府、自治体の方針に従うしかなかった。
話し合いの中では、経済的な損失を危惧して延期を主張する球団もあったようだが、特に屋外球場の多いセ・リーグでは、今後クライマックスシリーズまでに日程を消化できるかが問題となり、一部の延期で乗り切るしかないと結論つけられた。それでも同コミッショナーは、以前政府関係者と話し合った際に「損失補てんに関して金額をまとめてスポーツ庁に出してくれと言われている。そうなると思う」と、国に対して補償を求める考えを明らかにした。
見え隠れする五輪の影
昨年も同様な事態に陥ったが、球界から損失補填の求めはなかった。メジャーリーグでは試合数に応じて年俸の削減が行われたが、それもなかった。
ある球団関係者は「去年は内部留保などでやりくりした」というが、2年連続となれば、そうはいかない。コミッショナーの損失補填要求は球界全体の悲鳴とも受け取れる。
先頃、関西大学の宮本勝浩教授がコロナ禍におけるプロ野球の経済損失に関して興味深い数字を発表している。
2020年の損失額を試算すると球界全体で前年比1423億円だったという。今季の緊急事態下で無観客試合を強いられる前述の5球団の損失は12億8897万円。これは満員の観客を入れて行われた19年と比較すると、損失額は約48億円に上る。球団別に見ると巨人、阪神が共に13億以上の損失と見込まれている。野球は日本スポーツ界の娯楽の王者であるだけに、失う額もけた外れに大きい。
今回の緊急事態宣言とそれに伴う無観客試合の決定は、あまりに唐突過ぎた。球界の臨時実行委が開催されたのが23、24日のこと。その翌日には緊急事態宣言発出だから、現場の混乱は必至だった。事実、宣言当日の25日は「告知期間が短く、混乱が生じる」という理由で有観客のままゲームは行われている。
なぜ、ここまで急いで、なぜ17日間という短期間が設定されたのか? そこに東京五輪の影を指摘するむきは多い。
予測不能な結末はいかに!?
感染の再拡大にもかかわらず、政府、東京都、五輪組織委員会らは開催方針を掲げている。7月23日の五輪開幕まで100日を切った今、全国で聖火リレーを行い、各競技のテスト大会も予定されている。世論の逆風を承知のうえで開催ムードを作っていくため、短期間でのコロナ封じ込めをアピールしたい思惑が見え隠れする。最悪、大会が無観客でも開催できる証として大型イベントであるプロ野球も利用されたのではないか。
昨年も野球界は無観客から始まり上限30、50%と観客動員していった。特に五輪野球決勝会場となる横浜スタジアムでは大観衆のもとでテストも行われている。幸い、大規模なクラスターが起きることもなく実績作りは成功している。こうした、五輪への協力と貢献があるにも関わらず、今回の一方的な無観客決定がされたから斉藤コミッショナーの苛立ちにもつながったのだろう。
今後の事態は、今連載のタイトル通りに予測不能だ。仮に4度目の緊急事態となれば、再び無観客や最悪は延期分の日程が消化しきれずにペナントレースの途中打ち切りなど最悪のシナリオまで考えられる。そうなれば、球団経営はこれまでにない危機を迎える。
初の無観客試合となった27日、神宮のヤクルト-巨人。ヤクルトの村上宗隆選手が両リーグトップの10号本塁打を放てば、巨人の岡本和真選手も100号のメモリアルアーチを記録するなど派手な打撃戦に、翌日のスポーツ紙には“神宮花火大会”の見出しが躍った。それでも場内に響いたのは両軍選手の声だけだった。
「グラウンドには銭が落ちている」「銭のとれる選手になれ」とハッパをかけたのは、かつて南海で名将とうたわれた鶴岡一人監督。まさか、コロナで銭の心配をする時代が来るとは思わなかっただろう。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)