高校時代に甲子園で中村奨成と対決
3月の「春のセンバツ」に続き、4月は大学野球の春季リーグが各地で開幕。
秋のドラフト会議に向けて、アマチュア球界も各カテゴリーで盛り上がりを見せている。
昨年の時点でスカウト陣から高い評価を受けていた選手たちはもちろんのこと、ひと冬を越えて大きな成長を見せた選手が突然現れるのも、春ならではの楽しみのひとつ。
ついに幕を開けた大学野球のリーグ戦でも、この春からドラフト戦線に急浮上してきた選手も少なくない。
今回は最終学年でのブレイクが期待される、中京大中京出身の本格派サウスポーを紹介する。
▼ 伊藤稜(中京大)
・投手
・178センチ/89キロ
・左投左打
・中京大中京出身
<主な球種と球速帯>
ストレート:140~150キロ
カーブ:110~115キロ
スライダー:120~125キロ
チェンジアップ:詳細不明
<クイックモーションでの投球タイム>
1.34秒
オープン戦で自己最速150キロをマーク
今年の大学生にはサウスポーの有力候補が多く、佐藤隼輔(筑波大)や鈴木勇斗(創価大)、山下輝(法政大)などが既に高い評価を得ているが、ここへ来て急上昇してきたのが中京大の伊藤稜だ。
高校時代は、3年夏に背番号11で甲子園に出場。初戦の広陵戦では3番手で登板したが、中村奨成(現・広島)に2ランを浴びるなど、被安打8の7失点と悔しいマウンドになった。しかしながら、当時から悪い癖のないフォームと140キロ台のストレートは印象に残っている。
大学でも早くからリーグ戦で登板を重ねていたが、昨年秋は故障で出番がなかった。
ところが、この春は一気に調子を上げて、3月のオープン戦では自己最速の150キロをマークしたという。その成長ぶりを確かめるべく、4月3日に行われた愛知大学リーグ開幕戦の東海学園大戦に足を運んだ。
まず、マウンドに立つ伊藤の姿を見て驚かされたのがその体格だ。
甲子園出場当時は176センチ・75キロだったが、リーグ戦のパンフレットによると、現在は178センチ・89キロ。その体は、高校時代とは別人のように大きくなっていた。上半身も下半身も満遍なく筋肉がついており、3年間で相当、体を鍛えてきたことがよくわかった。
フォームで特徴的なのがテイクバックの動きだ。
左手をほとんど下には下げず、かなりコンパクトな動きでトップの形を作り、そこから体の近くで鋭く腕を振り下ろすことができる。
写真を撮影する時も、腕が出てくるタイミングが他の投手とは明らかに違うため、なかなかリリースにシャッターを合わせることが難しかった。打者にとっても、それだけ打ちづらい証拠といえる。
どちらかといえば、左打者対策で登場する技巧派のサウスポーに多いようなフォームだが、伊藤はそのような投げ方で速いボールを投げられるというのが大きな長所である。
数字以上に勢いがあるストレート
この日の最速は自己最速に及ばない145キロだったが、コンスタントに140キロ台前半をマーク。数字以上に打者の手元で勢いが感じられた。
ボールが先行した時にも、ストライクゾーンにストレートを投げ込んで空振り、ファウルでカウントを稼ぐことができるので、捕手にとって組み立てが、かなり楽であったと想像できる。
それに加えて、コントロールに苦しみ、四死球を与えて走者を背負う場面が多かったが、セットポジションで投げても球威が落ちないことも長所のひとつだ。
変化球で中心となるのはスライダー。120キロ台前半から後半でスピードに差をつけて投げ分けており、特に速いボールは、打者の手元で鋭く変化する必殺のボールだ。
少しコントロールはアバウトだったものの、低めに決まればかなりの確率で空振りをとれていた。カーブやチェンジアップの緩いボールの精度が上がれば、さらにストレートとスライダーが生きてくるだろう。
7回二死からヒットを許してノーヒット・ノーランの大記録は逃し、この回限りで降板となったが、立ち上がりから全くヒットの出る気配がなく、相手打線を力で抑え込む投球には高校時代からの成長がはっきりと感じられた。奪った21個のアウトのうち三振が8個、フライアウトが6個というところにも、ボールの勢いがよく表れている。
この日は伊藤をお目当てに7球団のスカウトがスタンドに集結していたが、大きなアピールとなったのは間違いない。
これだけ力のあるボールを投げ込むサウスポーは貴重なだけに、今後のピッチングにもぜひ注目してもらいたい。
☆記事提供:プロアマ野球研究所