トンネル脱出への“分岐点”
不振に悩み苦しんだ時間は、広島・小園海斗にとって必要な経験だった。
高卒1年目だった2019年に58試合に出場して、球団の高卒新人では最多となる4本塁打を放った。しかし、飛躍を期待された昨季につまずいた。
開幕一軍を逃すと、8月終了時点でウエスタン・リーグの打率は.190の絶不調。一軍出場はわずかに3試合のみで6打数無安打に終わった。
一転、今季は二軍戦で打率.300と結果を残し、4月22日に昇格。打率1割台に低迷する田中広輔の不調も重なり、遊撃での先発出場を続けている。
なぜ、昨季の不調を抜け出すことができたのか。小園が分岐点を説明する。
「一番大きかったのは、森笠さんとの練習です。今年には去年後半の感覚がある」
昨年8月下旬、不調から二軍の遠征6連戦への同行が認められず、大野練習場で森笠二軍打撃コーチとの居残り特打を行った。
「下半身の軸をつくること」「上半身だけで振り過ぎないこと」「センター方向に強い打球を打つこと」…。
指導内容は1年目から言われ続けてきたことと大差はない。それでも、実戦から離れて数をこなすうちに頭の中が整理された。
“残留練習”以降の打撃成績が成長を証明する。
9月から昨季シーズン終了までのウエスタン・リーグで計123打席・52安打、打率は.423。
一軍では無安打に終わったものの、二軍での打率は.305まで上昇させてシーズンを終えた。
先輩たちの支えも糧に…
ただし、首脳陣の評価を覆すのは簡単ではなかった。
昨年11月に宮崎で開催されたフェニックス・リーグでは、現地で視察した佐々岡監督が「ショートを守っていて存在感を全く感じない。寂しいよ」と酷評。
今年は高卒3年目で初めて春季キャンプを二軍で過ごしている。
「ずっと悔しかった。“絶対に上がってやる”という気持ちでずっとやっていた。そういう気持ちを忘れずにやってきました」
励ましてくれたのは、手術からの復帰を目指す先輩だった。
昨年11月に右足首を手術して二軍キャンプスタートだった西川龍馬とは、居残り特打で一緒になって振り込む日が続いた。
「龍馬さんはヤバい。マネはできないけど、意識している部分は見ていれば分かる。2人の時間があったのは本当に良かった」
また、同じく手術後だった大瀬良も心配。「キャプテンとして大地さんがずっと声をかけてくれた」と感謝する。
こうして、二軍でも集中力を切らすことなく、昇格の機会を待ち続けた。
ため続けた鬱憤は、昇格即日に「8番・遊撃」で先発出場した4月22日のヤクルト戦にぶつけた。
0-1の2回、二死一・二塁で迎えた今季初打席で金久保優斗の直球を右前に運び、今季初安打・初打点を決めるなど2打点の活躍。それ以降、遊撃での先発出場を続けている。
昨季先発したのは三塁での1試合のみ。一軍で遊撃守備に就くのは実に2年ぶりだ。
「自分は出てくれと言われたところでやるだけなので、(守備位置について)何も言う立場にはない。その上でですが、ショートへのこだわりは持っている。そこで勝負したい気持ちはやっぱり強いです」
1年目は潜在能力を頼りに駆け抜けたと言ってもいい。今年で高卒3年目。どん底からはい上がろうと磨いた確かな技術が、小園の逆襲を支えている。
文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)