選手も“交流”の場
ついに幕を開けた『日本生命セ・パ交流戦』。しばらくパ・リーグの優勢が続いているが、今年こそセ・リーグの巻き返しはあるのか…。2年ぶりの開催に注目が集まる。
ベースボールキングでは、交流戦の開幕に合わせて過去の“交流戦珍事件”を振り返る特集を展開中。今回は、過去の交流戦で話題になった「因縁の対決」について取り上げてみたい。
シーズン中のイベントとは言え、正式に記録が残る公式戦。当然ながら選手たちも真剣勝負を繰り広げるのだが、やはり普段とは違う相手との戦いになるため、ファンだけでなく選手も楽しみにしている部分は少なからずあることだろう。
例えば、アマチュア時代の同僚であったり、反対にライバル列伝を持った2人がプロでは異なるリーグのチームに進んだ場合、交流戦は久しぶりの“再会”の場に変わる。
ここでは、そんな交流戦ならではの“楽しみ”にスポットを当てて、エピソードを紹介していく。
夏の甲子園以来の8年ぶりの再戦
交流戦初年度の2005年、6月11日のソフトバンク-ヤクルト戦では、「和田毅vs.石川雅規」という両左腕の因縁対決が実現した。
この2人、高校時代の1997年に夏の甲子園・1回戦で対戦。和田は浜田高の2年生エース、石川は17年ぶり出場をはたした秋田商の3年生エースだった。
試合は初回に1点を先制した浜田が、5回と8回にも1点ずつ加点。和田も秋田商打線を8回まで4安打1失点に抑え、勝利目前だった。
ところが9回裏、3番・4番に連打を許して無死一・二塁としたあと、和田が送りバントの打球を一塁に悪送球。カバーに入った右翼手も三塁に悪送球するダブルエラーで3-3と追いつかれ、なおも無死三塁のピンチ。
後続2人を敬遠して満塁策をとった和田だったが、8球続けてボール球を投げた影響からリズムが乱れ、打者・石川に対しては1球もストライクが入らず、痛恨の押し出し四球で、悪夢の逆転サヨナラ負けを喫した。
和田は「あっという間の出来事でした。負けた悔しさよりも、僕は2年生だったので、こんな負け方をして、先輩たちに申し訳ないという気持ちでした」と回想し、石川も「あの瞬間の和田の表情を今でも覚えてます。同じピッチャーとして後味が悪かった」とプロ入り後も複雑な気持ちを引きずっていた。
そんな夏の出来事から8年…。2005年からの交流戦導入により、大学時代も投げ合う機会のなかった2人による「8年ぶりの対決」が実現する。
「高校時代の雪辱ということにはそうこだわっていませんが、今度は石川さんに投げ勝ちたいです」の思いでマウンドに上がった和田は、丁寧に低めをつく制球重視の投球。計9安打を許しながらも、11奪三振の無四球・3失点で完投勝利。
「リベンジ?そうなりましたね」と言いつつも、公式戦では初の無四球完投に「これが一番うれしいです」と満面に笑みをたたえた。
一方、カブレラに満塁弾を浴びるなど、5回途中7失点で無念の降板となった石川は試合後、自身初となるシーズン中の二軍落ちを通告され、「自分の実力がないだけです。もう一度しっかり立て直さないと」と出直しを誓っていた。
広島県大会決勝戦以来、5年ぶりの対決
高校時代に甲子園出場をかけた県大会決勝戦で、延長15回引き分け再試合という“伝説の投手戦”を演じた両エースがプロ初対決を演じたのが、2018年6月2日のオリックス-巨人だ。
巨人の先発・田口麗斗(現・ヤクルト)は、広島新庄高時代の2013年夏の広島県大会・決勝戦で、瀬戸内高のエースだったオリックスの先発・山岡泰輔と延長15回を投げ合い、0-0で引き分けた。
そして、中1日置いて行われた再試合も、7回まで0-0の投手戦となったが、田口は8回一死二塁からタイムリーを許し、0-1で惜敗。「悔しいけど、山岡がいい投手でした」と、田口はライバルの実力を素直に認め、勝った山岡は「うれしかったけど、ちょっと残念だった。ずっと投げつづけていたい。どうせなら、もう1回再試合でもいいかなと思った」と9回で決着したことに物足りない様子だった。
それから5年後…。因縁の両者は交流戦で再び対決の火花を散らす。
高校時代の雪辱をしたい気持ちは「少なからず頭にはあったと思う」という田口は、「負けないよう強い意志を持って」マウンドに立ち、5回途中まで1本も安打を許さない。
だが、1点リードの6回に3連打を浴び、同点を許したところで降板。試合も延長12回の末、2-3のサヨナラ負け。「大事な回で点を与えてしまった。甘さ、弱さが出た」と反省の言葉を口にした。
一方、山岡も6回1失点の好投ながら勝敗はつかず、プロ初対決は引き分け。今季ヤクルトに移籍した田口との再戦で決着がつくのか、今後も注目が集まる。
ID野球の師弟対決が交流戦で実現
最後は監督同士の因縁対決を紹介する。「39歳の新人監督vs.69歳の恩師の師弟対決」が話題になったのが、2006年5月16日の楽天-ヤクルトだ。
ヤクルトのプレイングマネージャー・古田敦也監督は“野村ID野球の申し子”として知られるが、師の野村克也監督も同年から球団創設2年目の楽天の新監督に就任したことから、交流戦で両指揮官の対決が実現した。
試合は2回、古田の遊ゴロ併殺打の間に1点を先制したヤクルトが主導権を握り、リグスと真中満の2ランなどで3回を終わって7-1と大きくリード。
これに対し、楽天も4回に石井一久の乱調に乗じて四球を挟む7連打で同点に追いつき、7-10の9回にもフェルナンデスの2ランで1点差まで詰め寄ったが、あと一歩及ばなかった。
師に“恩返し”する形になった古田監督は「野村監督の目指している野球では、もうちょっとロースコアの試合だと思うんです。まだまだ勉強が足りないですね」と反省しきり。
一方、野村監督も「投手が点を取られ過ぎ。向こうも同じことを言ってんじゃないの」とボヤキつつも、「こっちは師弟なんて微塵も思ってない。ワンサイドじゃなくて良かった。(古田は)要所ではいいリードをしてた」とヤクルト監督時代同様、“捕手”古田のプレーが気になるようだった。
ちなみに、両者の対決は翌07年まで繰り広げられ、古田ヤクルトが通算7勝3敗と勝ち越している。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)