白球つれづれ2021~第22回・注目はルーキーだけじゃない!
阪神ファン、ヤジもきついが温かさも特別なものがある。
交流戦がたけなわである。5月25日の甲子園は異様な雰囲気が支配した。
阪神対ロッテ。この夜の主役は佐藤輝明選手でもなく、西勇輝投手でもない。敵側の鳥谷敬選手だった。
ロッテが2点を追う7回一死一、二塁の場面で代打・鳥谷がアナウンスされると球場全体から大きな拍手が沸き起こる。2年前、事実上の戦力外として虎のユニホームと決別。ロッテに拾われた男が特別な日に燃えた。右前適時打で期待に応えると、勢いに乗ったチームは8回の逆転につなげた。
試合前の練習時から鳥谷の下へ、青柳晃洋、秋山拓巳投手ら、かつてのチームメイトが次々と挨拶にやって来る。スタンドでは「鳥谷敬」とプリントされた阪神時代の応援タオルが振られる。なかには「ごめん!今日は鳥谷見に来てん」の応援ボードを掲げる虎党までいた。
交流戦がスタートして17年目(昨年はコロナ禍で中止なので実質は16年目)。これまでの戦いは、パ・リーグが圧倒的に強く優勝チームはパの12回に対してセは3度だけ。セ・リーグの一部には交流戦に未だ反対の声を聞く。当初は球界全体の人気振興策もあって誕生したが、ドル箱の巨人戦の減少に難色を示し、その後は過密日程に不満を漏らして「(交流戦の)役目はもう果たしたのではないか」と言う極端な発言も耳にする。
しかし、年に一度の夢の顔合わせは多くのファンに支持されている。鳥谷の登場だけで歓喜する甲子園の光景を見るのも交流戦ならではのことだろう。
ベテランの意地
それから、4日後の札幌ドームでは、これまた元阪神のベテランが驚きの輝きを見せた。日本ハム戦に3番・DHで出場した中日の福留孝介選手だ。
44歳の球界最年長ながら、衰え知らずのバッティングで何と4打数4安打2打点の離れ業をやってのける。同年齢の4安打は谷繁元信(元中日)以来6年ぶり2人目の偉業となった。
鳥谷や福留のような実績も人気もある大物が球団を去る時には、本人側も球団側も重大な決断が必要となる。力の衰えは認めつつも、まだ現役に執着する選手たちと、将来を見据えて若返りを模索する球団。彼らが高額年俸の選手であることもネックになる場合は多い。鳥谷や福留クラスになれば、当然現役引退後のコーチ就任要請もあるが、それを固辞して他球団でプレー続行を望んだ。
大物たちが去った阪神はどうなったか? 若返りが加速して現在、首位の座にいる。鳥谷や福留も新天地で活躍。結果はこれでよかったという事なのだろう。
「一日一日、目一杯やる。そこで手を抜けば下がっていくだけなので、目一杯常にやり続ける事」。福留がヒーローインタビューの場で語った言葉だ。控えに回ることの多い鳥谷も今月26日には40歳を迎えるが、日頃から練習に手抜きはない。長寿の秘訣は野球への衰えぬ情熱とコツコツと積み上げる鍛錬とそれを支える頑丈な肉体にある。
スポットライトを浴びた元阪神コンビに対して、ファームで出番を待つベテランたちもいる。現役最年長投手である中日の山井大介は43歳。5月30日のウエスタン・リーグ、オリックス戦で先発して5回2安打1失点で4勝目(1敗)を挙げている。
そして39歳の西武・内海哲也投手は3日の巨人戦で今季初の一軍先発を迎える。こちらもイースタン・リーグでは4勝無敗、防御率1.80と結果を残しての出陣だ。親分肌で今でも一部の巨人投手から慕われる内海だが、一方では巨人戦に勝利すれば12球団制覇の勲章がかかる。故障者続出で苦悩する辻発彦監督に恩返しの熱投ができるか、注目である。
生きのいいルーキーの対決や2年目の佐々木朗希(ロッテ)、奥川恭伸(ヤクルト)投手らの投げ合いが見られるかも知れないのが交流戦ならではの楽しみだが、ベテランたちの“いぶし銀”の働きも目に焼き付けておきたい。
老兵だって、まだまだ死ぬわけにはいかない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)