コラム 2021.06.15. 07:09

熾烈を極める広島の捕手争い…石原貴規は持ち前の守備力で「打てる捕手」たちに挑む

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広島・石原貴規

投手の良いところを引き出すリード


 広島・石原貴規捕手(23)は、1年目の昨季から安定した送球や捕球技術を高く評価されてきた。

 出場機会を増やしている今季、新たにアピールするのが“配球の巧さ”である。




 意識しているのは、球種ごとの状態を素早く見極めることだと言う。

 「打者の苦手な所を攻めるということも大切にはしていますが、投手がその日の良い球を投げていく方が(打たれる)確率は下がると思っています」

 象徴的だったのが、プロ初出場となった3月28日の中日戦(マツダ)だ。



 先発捕手の會澤翼が8回の攻撃で代走を送られたことで、両者無得点の9回表のマスクをかぶることに。

 初出場にしてはあまりに荷が重い展開…。そんな中、石原は臆することなく大胆な配球を見せる。

 投手は抑えの栗林良吏。先頭の京田陽太を二ゴロに打ち取り、木下拓哉と武田健吾は2者連続の空振り三振。

 見事に三者凡退に導いたのだが、投じた計11球の内訳は直球が5球、カットボール5球にカーブが1球。勝負球のフォークを要求しなかったのだ。


 開幕後、栗林がフォークを1度も投げなかったのは、この1試合しかない。

 試合後、栗林は配球についてこう言及している。

 「石原がカットボールの調子が良いと判断して配球してくれたのだと思う。そこは捕手を信頼している。フォークに頼らずにいけたことは良かった。ブルペンで石原に受けてもらうことも多いし、石原を信じて腕を振ることができた。いい選択をしてくれて良かったです」

 球数の限られる救援投手の状態を瞬時に見極めるのは容易ではない。加えて、1点も与えられない同点の最終回に可能な限りフォークを隠すというのは、勇気も必要だっただろう。

 この判断は、落ち球を想定していた打者の裏をかく形となって奏功した。


層の厚い捕手争いに勝つためには…


 5月8日の中日戦(バンテリン)では、1点リードの8回途中から栗林の登板と同時に途中出場。栗林の直球の制球力が不安定と判断すると、カーブとフォークを中心に組み立て直して無失点に導いた。

 この試合以降、「抑え捕手」としても度々起用されるなど、首脳陣からの評価を高める一戦となった。

 倉バッテリーコーチも「捕手としての良い雰囲気を持っている。投手のいい所を引き出そうと考えられる」と言う。送球の安定感などに加え、配球面も評価され始めている。


 5月下旬に新型コロナウイルスの陽性判定を受けて離脱したとは言え、これまでの高評価が簡単に揺らぐことはないだろう。ただし、一軍に戻り次第、多くの出場機会を得られるかというと、そうとも言い切れない。

 會澤だけでなく、坂倉将吾らも擁している広島の捕手層の厚さは12球団でもトップクラスだ。事実、石原が出場機会を増やしたのは、正捕手の會澤が故障して抹消されていた期間だった。


 石原の不在期間に、會澤はコンディション不良から復帰。再昇格後、佐々岡真司監督が「アツ(會澤)が入ると(雰囲気が)引き締まる。やっぱり要としてしっかりしてくれているなと思う」と絶賛した試合もあった。首脳陣はいま、改めて正捕手の存在の大きさを実感していることだろう。

 その中で、石原は15日に再昇格。今後先発出場するには、會澤の先発マスクを週に1度程度奪うか、または九里亜蓮や森下暢仁とコンビを組む坂倉の領域を崩すしかない。この高い壁を越えられなければ、「第3の捕手」か「二軍の正捕手」として今季を過ごすことになる。


 會澤、坂倉の「打てる捕手」に守備力で対抗できるか…。

 配球で首脳陣をうなずかせることができれば、生き残りへの勝機が見えてくる。


文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)

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