第3回:代表最多を誇る広島の不振
広島がついに最下位に沈んだ。
直近の交流戦では3勝12敗3分け。4日の楽天戦から14日の西武戦にかけて8連敗を喫するなど、チームにとっても3勝止まりは交流戦ワーストの惨敗となった。
セ・リーグとしては実に12年ぶりの勝ち越し(49勝48敗11分け)を記録したが、リーグ戦で苦戦するDeNAや中日の健闘が光った分、逆に広島の凋落を印象づけた格好だ。
交流戦の最終戦となった16日の日本ハム戦が苦しい現状を露呈していた。1-8のワンサイドスコアだけではない。ルーキー・伊藤大海投手をはじめとした日本ハム投手陣の前に散発5安打の貧打もお寒いが、各評論家はこぞって、緊張感のないミスや緻密さも感じないベンチの采配ぶりを指摘している。
黄金期から一転
今では、昔の事のようにも感じてしまうが、原・巨人の前に黄金期を築いたのは広島だった。16年から18年にかけてリーグを3連覇。それが、わずか3年でここまで凋落するとは誰が予想しただろう。
<2016年チーム成績> 89勝52敗2分け
打率.272、本塁打153本、盗塁118、防御率3.20(※すべてリーグトップ)
<2021年チーム成績(59試合消化時点)> 19勝32敗3分け
打率.252、同本塁打38本、盗塁31、防御率3.84(※すべてリーグ4〜5位)
3連覇時代を振り返ると、キーマンが2人いた。16年限りで現役引退した黒田博樹氏は、チームに勝負の執念を植え付けている。そして、もうひとりの新井貴浩氏がチームリーダーとして全軍を引っ張った。
打者では丸佳浩、鈴木誠也選手がリーグを代表するスラッガーに成長。外国人では、投手のクリス・ジョンソン、打者のブラッド・エルドレッド選手らが大活躍し、抑えでも中崎翔太投手らがフル回転の働きを見せた。緒方孝市監督の下、投げて、打って、守って、走って隙のない野球は躍動した。
そんな中で、19年には丸が巨人にFA移籍、優良助っ人も退団していき、中崎らは故障で第一線を離れていった。これに対してドラフトで森下暢仁、栗林良吏投手らを効果的に補強出来たものの、依然としてチームバランスは悪い。特に大砲役を期待する新外国人獲得に失敗、投手陣では中継ぎ陣の弱さが目につく。さらに、強い赤ヘル軍団の代名詞だった機動力を絡めたそつのない野球まで影を潜めてしまったところに八方ふさがりの現状がある。
侍に5選手が内定も…
16日、東京五輪に出場する侍ジャパン24選手の発表が行われた。何と広島勢は鈴木、森下、栗林だけでなく、會澤翼捕手、菊池涼介選手と、球団別では最多5選手が選出されている。
會澤の選出には一部で驚きの声もあるが、前回の国際大会である「プレミアム12」での働きを稲葉篤紀監督が評価してのもの。15日の西武戦で左脚を痛めて登録抹消されたばかりのため、今後の回復次第では代替選手の選出もあり得るが、瀕死のチームにもまだ日本を代表する戦士がこれだけ揃っていることを証明した形だ。
佐々岡監督にとっても複雑な大量選出だろう。18日から交流戦後のペナントレースが再開するが、7月18日からは五輪開催のため、1カ月近い「五輪ブレイク」に入る。
各チームは戦力の立て直しや再整備に力を注ぐのが今季の大きな特徴。だが、主力をごっそり抜かれた状態でチーム再建は進むのか。五輪組が自信をつけて戻ってくればいいが、疲労困憊での復帰なら、さらに苦戦が続く恐れもある。見方を変えれば「これだけ日本代表組がいて、何でこの順位?」と批判の矛先が佐々岡監督に向かってくることもあるだろう。
「もう一度、原点に帰って先発が試合を作り、先制する形を作っていきたい」と、交流戦終了後に巻き返しを誓った指揮官だが、チーム全体を覆う厳しさの不足や覇気のない戦いに批判の声が聞こえ出したのも事実だ。すでに地元ファンの中には来季の黒田監督待望論まで出始めているという。
“真夏のストーブ”と騒ぐにはまだ早すぎる。残るペナントレースは80試合あまり。人柄の良さでは定評のある佐々岡監督が、どれだけ鬼になれるのか。チームを戦う集団として束ねていけるか。カープ浮上はその一点にかかっていると言っても過言ではない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)