「打球を飛ばすのが楽しい」
遠くに飛ばせるパワーを持っていることに気付いていなかった。
それが、ある一言をきっかけに、広島・林晃汰内野手(20)は長距離打者として生きていくことになる。
「安打だとしてもゴロならアカン。フライを打ちなさい」
中学生だった当時、所属していた和歌山・紀州ボーイズの玉田昌幹監督から伝えられた助言である。
当時は広角に打ち分ける巧打者だと自覚していた。一方、指導者からは筋肉質の恵まれた体格を持て余しているように映っていた。
長距離打者を目指そうと促された。指導されたのは球の下側を捉えること。
「元々長打を打てる打者ではないと思っていたけど、中学で変わりました。野球が面白くて、打球を飛ばすのが楽しくなった。いまも長打が出るときはボールの下を捉えている。その感覚は変わらないです」
すぐに打球の角度は上がり始め、本塁打を量産できるようになった。
プロ初安打も恩師は「物足りないなあ」
長距離打者は一般的に2つのタイプに分かれる。
エンゼルス・大谷翔平のように球の芯を捉えて打球速度を上げる、もしくは球の下側を捉えることで投球と逆方向の回転をかけて打球角度を上げる方法である。
林は、長距離砲特有の“角度”を身につけて飛距離を伸ばしていく。
智弁和歌山でさらに長打力に磨きをかけ、高校通算49本塁打を放った。甲子園歴代最多勝利を誇る高嶋仁名誉監督には、「指導者としての48年間であれほど飛ばす選手は見たことがない」とまで言わしめた。
広島入団後も長打力を買われ、高卒1年目から二軍の4番に固定された。
そして、高卒2年目だった昨季に一軍デビューをかなえると、10月9日のヤクルト戦でプロ初安打となる二塁打。初安打を放った試合後、恩師である玉田監督からメールが入った。
「おめでとう。でも、物足りないなあ」
監督が求めていることは言わずとも分かる。
「次は本塁打を打ちます」
と返信した。
「チャンスで打てるような打者になりたい」
そして高卒3年目の今季、求め続けてきた長打力がプロでも通用し始める。
5月29日のロッテ戦でZOZOマリンスタジアムの右中間席に放り込むプロ1号を決めると、6月6日の楽天戦では田中将大からも本塁打を放った。
打率4割超と確実性も身につけ、同22日のヤクルト戦では初めての4番起用。鈴木誠也が体調不良で欠場するなか、西川龍馬や松山竜平らを押しのけての抜てき。磨いてきた長打力が認められたのだ。
鈴木誠が復帰するまで4試合連続で務めた“4番”では、17打数2安打と低調に終わった。
得点圏では5打数無安打で3三振…。4番を務める以前に得点圏打率.647(17-11)を残していた勝負強さを発揮することができなかった。
それでも、結果を恐れることなくフルスイングは貫いた。
「(4番でも)やるべきことは変わらない。自分のスイングをしようと思った」
持ち前の強振が力みに変わったのは、4番を務めなければ分からない貴重な経験だった。
「チャンスで打てるような打者になりたい」
中学を境にして人生は変わった。高卒3年目にして定位置をつかもうとするところまで来たのは、飛距離にこだわり続けてきたからである。
文=河合洋介(スポーツニッポン・カープ担当)