コラム 2021.07.07. 07:07

「もう一回うまくなるチャンス」…中谷将大は地元・福岡で再起に賭ける

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トレードでソフトバンクへの移籍が決まった中谷将大 [写真提供=福岡ソフトバンクホークス]

9年前の大飛球「お前にはまだ早い」


 「寂しい」の一言しか浮かばなかった。

 7月2日、阪神タイガース・中谷将大と福岡ソフトバンクホークス・二保旭の交換トレード成立が発表された。




 中谷は2010年のドラフト3位で入団。筆者が記者1年目だったことで勝手に親近感を抱いて、ずっと鳴尾浜から追いかけてきた1人だった。

 「いつか一軍で初ホームランの原稿を書く」――。

 密かな目標を胸に、一軍を目指す姿を見てきた。



 今でも鮮明に覚えているのは、高卒2年目だった2012年8月23日の中日戦。

 初昇格で即スタメン出場を果たした背番号60を、倉敷マスカットスタジアムの記者席から胸を高鳴らせて見守った。


 4回無死一・二塁で迎えた第2打席。大野雄大の投じた7球目のフォークを捉えた打球が左翼ポール際へ飛んだ。

 「うわっ!」

 思わず叫んでしまった大飛球は、惜しくも切れてファウル。結果は中飛で、4日後には二軍降格となった。


 貴重な経験を積んで帰ってきた19歳に声をかけると、苦笑いで言った。

 「あの打球ですよね。惜しかったですけど、野球の神様から“お前には、まだ早い”って言われてる気がして…。まだまだ力不足だということですね。もっとレベルアップして帰ってきたいです」

 今となっては本人も恥ずかしい言葉かもしれないが、悔しさを覆う希望に満ちた目をしていた。


「もう一回うまくなるチャンス」


 中谷がプロ初本塁打を放ったのはそれから4年後。2016年6月25日の広島戦のこと。

 マツダスタジアムの左翼ポール際、2階席のフェンスに直撃する2ランだった。

 「あの倉敷で打った打球が入っていたら、人生変わっていたのかなとか思ったりしましたけどね」

 神様の“まだまだ”から時間はかかったが、今度は切れなかった。


 翌年の2017年にはチームトップの20本塁打をマーク。待望された和製大砲の才能はついに覚醒した…かに思えた。

 その後は2018年が5本、2019年は6本、そして2020年は2本。確かにステップを踏んだ1年は、苦闘の入り口になった。


 11年目を迎えた今季は春季キャンプこそ2年ぶりに一軍スタートとなったものの、怪物ルーキー・佐藤輝明の華々しいデビューもあって影は薄く、一軍での出番は1度もなかった。

 「日々、何かきっかけを掴まないといけないとか、もっともっとうまくなりたいという思いでやっていた」

 チャンスが無くても「もっと上手く」、「もっと遠く」を目指して…。選手として、長距離ヒッターとしての矜持だけは失わず、バットを振ってきた。


 そんな時に飛び込んできたトレードの報だった。

 「欲しいと思ってもらえるってことが、一番野球をやっている中で嬉しいこと。もう一回うまくなるチャンスだと思うので」

 多くの人に「次代の主砲」の幻想を抱かせてきた男は、地元・福岡に帰る。

 「知り合いも含めて、僕に関わっている人が見てくれると思うので。その中でもう一回頑張れたら」

 明暗を分けたあのポール際の打球からちょうど9年が経った。“まだまだ”の意味を求める戦いは終わっていない。


文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)
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