心の悲鳴が寝ている時に現れる…
心の状態は“夢”が物語る。
中日・京田陽太にとっては、うなされ、苦しむのが就寝タイムになっていた。
あるときは歯が抜け、またあるときは途方もない遠くまで続く排泄物…。
打撃不振を理由に、5月下旬にプロ5年目で初めて二軍を経験した。
昨季の打率.245からジャンプアップを狙うも、春季キャンプからフォームは固まらない。そのときのメンタルは、夢の内容が物語っていた。
キャンプ2日目の朝、歯が全部抜けて跳び起きている。
現実か夢か分からないまま、枕元のスマートフォンに手を伸ばす。「夢占い 歯 抜ける」と検索してみた。精神状態が不安定な時にみる傾向があると知った。
グラウンドで「これ」といったフォームが見つからないから、深刻さは増す。
つづいて、「どうにかなっちゃうかと思いました」と振り返る夢の舞台は、一本道の道路上だった。
まず、歩いていて犬の排泄物を見つけた。「なんでか分からないんですが持っていました」というスコップで拾い、道端へよけた。
ところが、顔を上げるとまた排泄物。「え、また?」と思って処理、再び顔を上げると、地平線のかなたまで落ちていた。
「もう無理。片づけられない」と思ったところで目は覚めたという。再び検索すると、将来への不安を暗示すると分かった。
「リーグを代表する遊撃手」に…
開幕から打順は6番でスタートし、2番に入る。
4月11日の本拠地・ヤクルト戦で今季初めてスタメンを外れたのがどん底。
「夢で奥歯が抜けました」
打率.210台に低迷する時期もあり、5月下旬に出場選手登録を抹消されたのだ。
初体験の二軍では、仁村二軍監督の指導を初めて受けた。
チーム内の立ち位置や、チームメートからの見られ方、試合に臨む心構えを考えるきっかけになった。
仁村監督はメディアに「打球はね、他の若い選手に比べて質が違うし、力が違う。走攻守、すべてでリーグを代表するようなショートになってもらわないといけない。強いチームの、そのチームを引っ張るショートになるために頑張ってもらう」と話している。
「勉強になりました」と振り返る約1カ月間の鍛錬。ウエスタン・リーグでは.283。身支度を調えて、東京へ向かった。
再出発は6月30日のDeNA戦(神宮)。2打数1安打だった。7月6日の巨人戦(前橋)ではマルチ安打をマーク。複数安打は1カ月半ぶりだった。
京田は「二軍の首脳陣、スタッフの方々のおかげで一軍でプレーできています。また、いい準備をまたします」と話す。
ファームを知らずに一軍で輝き続けるなら、それでいい。ただ、初めてのナゴヤ球場に気づきはあった。
リーグを代表する選手になれるかどうか、その戦いは続く。描いたイメージは、現実世界のグラウンドで形にするしかない。
ちなみに、二軍落ちしてから、夢は見ていないという。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)