

第2回:現役最強の打者?!
侍ジャパンのチーム編成に誤算が生まれている。
先月15日に東京オリンピックに出場する内定24選手が発表されたが、その直後から會澤翼捕手、中川皓太、菅野智之投手が離脱、代わって梅野隆太郎捕手、千賀滉大、伊藤大海投手が補充された。
特に気になるのは菅野の辞退と千賀の繰り上がり当選だ。會澤、中川の場合は故障だからやむを得ない辞退だが、菅野の場合はコンディションの不良。7月1日の広島戦に久々先発も3回と持たずに4失点KO、翌日には再度のファーム落ちとオリンピック出場辞退が発表された。
逆に中川の故障で、緊急招集された千賀だが、こちらもピリッとしない。左足首靱帯損傷の大ケガから、今月6日のロッテ戦で一軍復帰を果たしたが3回途中、自己ワースト10失点と不安を残した。評論家の中には、この内容では1カ月以内に完調に戻るとは思えず、選出自体が間違いだったのでは?と疑問を呈する向きもある。
二人とも日本を代表するエースであることは間違いない。稲葉篤紀監督も先発の柱として計算をしていたはずだ。しかし、今季に限っては開幕直後から調子が上がらずに苦しんできた。
2番は柳田が適任か
今回の日本代表を選出するにあたって、最も首脳陣が苦しんだのは、直近に選手選考のたたき台となる国際試合が出来なかったこと。選手や球団との接触機会がコロナ禍で減少したことなどが挙げられる。
加えて19年の「プレミア12」では28人のベンチ入り枠が、五輪では24人に絞られる。これによりプレミアの時は可能だった周東佑京選手の快足、外崎修汰選手のユーティリティー性など日本が得意とする「スペシャル枠」に制限がかかったことが、本番の戦いにどんな影響を及ぼすのか興味深いところだ。
投手陣に不安を抱え、“飛び道具”も手薄となれば、これまでの五輪大会より打線にかかる比重は大きくなる。
「これからの合宿や強化試合での調子、さらに対戦国との相性なども考慮しながら直前まで打順は考えていく」とする稲葉監督だが、同時に「プレミアのメンバーが中心にはなる」とも語っている。となればプレミア時の主軸だった鈴木誠也、坂本勇人、山田哲人、浅村栄斗各選手らに、当時は故障でメンバー外だった柳田悠岐に初選出の村上宗隆選手あたりが、どう絡んでくるかによって夢のオーダーが浮かび上がってくる。
打順に関するキーワードは「2番最強説」である。稲葉監督は「最も力のある打者を2番に置くことも考えている」として、柳田の抜擢を視野に入れている。今さら説明不要の現役最強打者。2014年に行われた日米野球では初代表でMVPを受賞、18年の同大会でも初戦に史上初の逆転サヨナラ本塁打を放つなどメジャーリーガーを唸らせた。国際試合での勝負強さも折り紙付きだ。
この柳田を2番打者として起用した時のオーダーを予想してみた。
1番 山田哲人(指)
2番 柳田悠岐(中)
3番 吉田正尚(左)
4番 鈴木誠也(右)
5番 村上宗隆(三)
6番 浅村栄斗(一)
7番 坂本勇人(遊)
8番 甲斐拓也(捕)
9番 菊池涼介(二)
調子次第で、山田と坂本、村上と浅村の打順入れ替えも可能。ジグザグ打線を目指すなら3番・鈴木、4番・吉田、5番・浅村とすれば7番まで右、左が続く。
今回の打線は先述の通り、周東のような足のスペシャリストは不在だ。代役は源田壮亮選手になるだろうが、坂本にもしものことがあった時の遊撃手として貴重なピースだから、早い回から代走は考えにくい。そうした時に首位打者2回の確実性に、けた外れのパワーで本塁打が量産出来て、なおかつ足でも盗塁の計算が立つ柳田の2番は、稲葉ジャパンの核と言ってもいいだろう。
史上最強のドリーム打線と言いたいところだが、意外なことに上記メンバーで7日現在、打撃成績10傑に名を連ねているのは、パ・リーグトップの吉田や同10位の柳田ら4選手だけ。山田、鈴木、坂本らは、まだ例年ほどの出来にない。彼らはいずれもコロナ禍の影響を受けた選手たちだ。ここにも特殊な五輪事情が垣間見える。
ペナントレース前半戦もあとわずか。オールスター戦を経て球界もオリンピック一色に染まる。誰が“夏男”となって調子を上げてくるのか。指揮官がメンバー編成に嬉しい悲鳴を上げた時、確実に金メダルが近づくはずだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)