「不利な判定は巨人戦に多いよ」
プロ野球の長い歴史の中で起こった「珍事件」を球団別にご紹介していくこの企画。
第2弾は、今季セ・リーグの首位を突っ走る阪神タイガース編だ。
野球選手も人間。時には周りが見えなくなり、肝心なことがおろそかになるケースもある。
「しまった!」と気づいたときには、あとの祭り…。
そんないかにも人間らしいミスから、状況が一変してしまったというケースが過去に何度もあった。
退場騒ぎのどさくさに紛れ、痛恨の失点が記録される珍事が起きたのが、1999年7月18日の巨人戦(甲子園)だ。
0-1で迎えた6回二死二塁。阪神の先発ダレル・メイは、高橋由伸を一ゴロに打ち取る。一塁手のマーク・ジョンソンが打球を処理し、ベースカバーのメイに送球。3アウトでチェンジ…と思われた。
ところが、杉永政信一塁塁審は「一塁ベースを踏んでいない」として、セーフをコールするではないか。ジョンソンが血相を変えて杉永塁審に詰め寄り、続いてメイも胸を突き出すようにして体当たり。杉永塁審は暴力行為でメイに退場を宣告した。
そして間の悪いことに、タイムがかかっていなかったことから、二塁走者の川相昌弘がこの隙に2点目のホームを踏む。
野村克也監督は「この誤審を認めろ。テレビではハッキリ映っているじゃないか」と6分間にわたって抗議したが、杉永塁審も「いいえ、ベースは踏んでいません」と一歩も引かず…。結局、2点目は取られ損となった。
試合もこの1点が祟り、2-3の惜敗。野村監督は「不利な判定は巨人戦に多いよ」とボヤくしかなかった。
「23年間、今の仕事をやっているが初めてです」
ピンチに際して内野手がマウンドに集合。そんなチーム愛溢れる行動が予期せぬ暗転劇をもたらしたのが、1985年6月16日の大洋戦(甲子園)である。
3-3の8回、一死二塁のピンチ。捕手の木戸克彦がマウンドの山本和行のもとに歩み寄ると、内野手たちも集まってきた。
3-0の7回に一挙3点を奪われ、追いつかれた直後とあって、「ここはしっかり守っていこう」と、バッテリーと野手陣が結束。「チームはやっぱりこうでなきゃ!」と言いたいところだったが、直後、とんでもない事態が起きる。
マウンドの輪が解け、各自それぞれの守備位置に戻りはじめた隙に、二塁走者のジェリー・ホワイトが三塁に向かってスタートを切ったのだ。
そのとき、山本はマウンドの土を踏み慣らしており、ショート・平田勝男も後ろを向いて土を慣らしていたので、「まったく気がつかなかった」。
三塁手・掛布雅之も三塁ベースから離れた地点にいたため対応できず、「木戸がタイムをかけたものだと、てっきり思っていた…」と絶句。その木戸も「タイムをかけたと思うんですが…」と要領を得ない。
これには吉田義男監督も「タイム中ではないか?」と井上忠行球審に抗議したが、あえなく「インプレー」と却下された。
東田市夫公式記録員も「23年間、今の仕事をやっているが、初めてです」と目を丸くした珍事。こんなときは、得てして皮肉な結果が待っている。
直後、山本は田代富雄に決勝2ランを被弾するなど計4点を献上。阪神は3-7で敗れた。
とはいえ、同年の阪神は大洋に17勝6敗3分と大きく勝ち越しており、伝説の“猛虎打線”を擁してリーグ優勝と日本一に輝いたのは、ご存じのとおりだろう。
当時大洋に在籍していた選手の一人は「5点差ぐらい平気でひっくり返されてしまう。ピッチャーが一生懸命投げても、打線が一生懸命点取っても、ガツーンといかれる。悔しい思いをしましたね」と回想している。
球史に残る強力打線は、多少のうっかりミスを埋めて余りある存在だったと言えそうだ。
うっかりミスで逆転負け
捕球していればファインプレーだったのに、そのあとの行動がやらずもがなの失点につながったのが、2013年7月2日の巨人戦(甲子園)だ。
阪神の先発・能見篤史は、2-0とリードした5回二死から中井大介に安打を許したが、次打者・坂本勇人は右翼線へフラフラと飛球を打ち上げた。
右翼手・今成亮太がラインぎりぎりまで追いかけ、最後はスライディングキャッチを試みたが、ボールはグラブに当たったあとポロリ。
右邪飛をもうちょっとで捕り損なったと思った今成は「惜しかった!」とばかりに、仰向けの姿勢のまま両手を広げて悔しがった。
ところが、判定は「フェア!」──。
今成は慌てて返球したが、時すでに遅し…。二死とあって、打球が上がると同時にスタートを切っていた中井は、一塁から一気に生還。坂本も二塁に到達した(記録は二塁打)。
和田豊監督が抗議したが、VTRを確認すると、今成が打球をグラブに当てたのは明らかにフェアゾーンだった…。
実は、巨人は開幕以来、甲子園の阪神戦でゼロ行進を続けており、皮肉にもこれが35イニング目のシーズン初得点。
今成の勘違いに乗じて不名誉な記録をストップした巨人は、7回に坂本の2打席連続二塁打で2-2に追いつくと、延長11回、実松一成のタイムリーで試合を決めた。
完封ペースから一転悪夢の逆転負け…。“うっかり”の代償は高くついた。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)