第3回:待たれる若きスターの出現
野球人気の低落が懸念されてから久しい。“二刀流”大谷翔平選手の話題で持ちきりだった米大リーグ・オールスターの全米視聴率も4%台と、史上初めて5%を割るワースト記録に終わったという。
米国ではバスケットボール(NBA)やアメリカンフットボール(NFL)に主役の座を追われているのが現状だが、日本も例外ではない。かつては当たり前だった地上波中継は消え、サッカー、バスケット、ラグビーなど各競技のプロ化が進みファンの嗜好も多様化している。今や、世界を視野に入れた争いを求め、若きスーパースターの出現を渇望している。
若き才能の爆発力とベテランの経験
野球という競技は他のオリンピック種目に比べて、競技国や人口が少ないため、五輪参加が04年北京大会以来17年ぶり。今大会も6カ国による少数精鋭の戦いとなる。だからこそ、日本にとってメダル奪取は最低限の目標であり、金メダルを獲って、野球人気の回復や青少年に夢を与える使命まで課せられている。
東京五輪に挑む侍ジャパンの特徴は若き逸材の選出にある。中でも村上宗隆選手(ヤクルト)と平良海馬投手(西武)は共に21歳の最年少コンビだ。米国やメキシコ、ドミニカらの出場国の多くが元メジャーのベテラン選手を中心に構成されているのに対して、稲葉ジャパンは若返りに舵を切った。
菅野智之、中川皓太両投手の出場辞退に伴って千賀滉大、伊藤大海投手が加わった投手陣を見ると、11人中5人が25歳以下で平均年齢も26.3歳。伸び盛りの若さの勢いが勝つか、外国勢のベテランの経験が勝るか。大きな勝負ポイントにもなりそうだ。
村上の起用法については、稲葉篤紀監督も直前まで注視していくことだろう。
不動の三塁手で球宴までの前半戦(15日現在以下同じ)の打撃成績は26本塁打(リーグ2位)、61打点(同3位)と文句なしだが、7月に入って不振に陥り、打率.258は同22位と低迷している。直近の打撃を見ていると、特に内角の変化球に苦戦しているため、このあたりの克服が急務となりそうだ。
数字上、村上の上を行く巨人・岡本和真選手を選出しなかったのだから、現代表で最多本塁打をマークする長距離砲にクリーンアップの一角を期待しているのだろうが、一発勝負の短期決戦では打順の組み方ひとつも命取りになる。逆に本来の調子を取り戻せば、高卒2年目から36本塁打を記録して怪童・中西太(元西鉄)の再来と言われた男でもあるだけに、チームの主役に躍り出る爆発力も秘めている。
若さは諸刃の剣?
もう一人の21歳、平良は栗林良吏と共に重要な抑えを期待される。
開幕から39試合連続無失点のプロ野球記録を樹立した若き天才。今月6日の日本ハム戦で大記録は途切れたが、39回2/3を投げて防御率0.23。とりわけ奪三振は52を数え、奪三振率も11.80の無双ぶりだ。
今回の投手編成について、稲葉監督は「精神的な強さに加えて、三振の取れるピッチャーを重視した」と語っている。クローザーの座を競うであろう栗林も防御率0.53で奪三振率は14.44と一級品の力を秘めている。
短期決戦の五輪ではすんなり決勝まで勝ち進めば5試合だが、最長は8試合を11日間の中で戦うことになる。中1日もない連戦となった場合には、先発陣はもとより救援陣も連投が当たり前になる。
「先発完投というより、いかに6、7、8、9回をつないで勝利に持っていけるかが大事」と指揮官は言う。現時点では8回に平良、9回に栗林が基本線になりそうだが、その時点での調子や相手国の打者を睨んで逆もあり得る。もちろん、ここ一番の大勝負ではエース・山本由伸の抑え役も視野に入るだろう。
若さとは“両刃の剣”である。ひとたび活躍しだすと手の付けられない威力を発揮してチームに想像以上の勢いをもたらす。反面、大舞台の緊張から歯車が狂うと、脆さも露呈するものだ。さて、村上と平良の最年少コンビはどんな結果をもたらすのだろうか?
コロナ禍で行われる五輪。福島での開幕戦は当初、有観客が予定されたが直前に無観客開催が決まった。復興五輪という大義名分も怪しくなった。なにもかもが異常な中でのビッグゲームまであとわずか。だからこそ、ファンはスポーツに光明を求めている。野球界の若き駿馬たちに夢を見たい。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)