「とにかく意地を見せたろう」
手にした白星の後ろに透けて見えたのは、「中堅」としての意地とプライドだった。
7月9日の巨人戦。7回表の途中に降り出した強い雨の影響で試合続行は不可能となり、球審はコールドゲームを宣告。それでも、勝利投手の秋山拓巳はベンチでしばらく表情を崩さなかった。闘志が鎭まるのをじっと待っているような姿に見えた。
試合後、胸にあった“熱いもの”の正体を明かした。
「(打たれたら)後がないとかじゃなくて、とにかく意地を見せたろうと思って4日間しっかり練習してきたんで」
ある意味、勝敗を超越する気持ちでマウンドに上がっていた。
伏線は1週間前にあった。
4日に行われた敵地での広島戦。3-2と1点優勢の展開にも関わらず、4回の好機に巡ってきた打席で代打を送られた。
相手先発が難敵の森下暢仁だったこともあり、ベンチが打った攻めの策。しかし、一方でそれは背番号46の降板を意味した。
3回までに2失点を喫しながらも、粘りは右腕の信条。自力を試されるはずだった一戦で残ったのは屈辱だった。
価値ある“1勝”
迎えたリベンジの舞台。怒りの感情だけに任せて過ごしたわけではなかった。
キャリア初の中4日と調整期間に限りがある中で、プロ12年で積み上げた経験と引き出しを生かすようにフォームの微修正に取り組んだ。
「(前回登板は)しっかり体を使って投げようとしすぎていて、全体を振って腕が強く振れていなかった」
左肩で壁を作るイメージをキャッチボール。ブルペンで染みこませ、上体のブレを抑えるように努めた。決して多くない時間を無駄にせず「心技」を整えた。
いつも聞こえるうなり声が、一際強く聖地に響いた。
5回にウィーラーにソロを被弾したものの、6安打・1失点。予期せぬ形でのゲームセットでも、渾身の81球でもぎ取った1勝は、秋山拓巳というプレーヤーの存在証明でもあった。
「雨天コールドで結果、中継ぎも使うことなく試合を終えられたので良かった。(フォーム修正が)結果になったので自分の中で引き出しとして増やしていきたい」
チームにとっても、2位・巨人との3連戦の初戦を制し、9連戦中で疲弊するブルペン陣に休息を与えた大きな1勝になった。
チームを引っ張っていく“自覚”
その4日後、前半戦ラストゲームとなった14日のDeNA戦はブルペンで待機。6回から登板すると、2回を無失点に封じ、劣勢の展開で流れを変える力投を見せた。
矢野燿弘監督も、「アキが行ってくれたからムードが変わった。助かりました」と、6日間の間に2度登板した男の奮闘を称えている。
4月に30歳となり、まわりを見渡せばほとんどが後輩。背中で、プレーで、結果で示す立場にもなった。
「(巨人戦は)ずっと良い投球ができていなかったんで、意地を見せたかった」
若いチームをけん引する強い自覚があるからこそ、その資格を自身に問うた一戦であったのかもしれない。
前半戦で密かに目標に設定していた“7勝”にも到達。満足いくパフォーマンスはできなくても、粘って耐えて、開幕からローテーションを守ってきた。
「後半戦、しっかり中心となれるようにもう1回、しっかり鍛え直してみんなと(優勝へ向かって)一緒に進めるように頑張っていきたい」
最高の景色を求めて、生え抜き右腕は疾走を続ける。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)