梶谷隆幸の“消えた二塁手事件”
プロ野球の長い歴史の中で起こった「珍事件」を球団別にご紹介していくこの企画。
第4弾は、横浜DeNAベイスターズ編だ。
2012年に「熱いぜ!」をスローガンにスタートを切ったDeNA。
前身球団・横浜が10年間で8度の最下位というどん底状態からチームを引き継いだだけに、試合で痛恨のミスを犯した若手がその後、悔しさをバネに精進し、主力選手に成長していったストーリーも多い。
まずはひとつ目は“消えた二塁手”事件。主人公になったのは、今季から巨人でプレーしている梶谷隆幸だ。
2013年4月9日の広島戦。1-4とリードされたDeNAは、3回にも二死満塁のピンチを迎える。これ以上の失点は何としても防ぎたい場面だ。
マウンドのエンジェルベルト・ソトも「ここが踏ん張りどころ」とばかりに、大竹寛を遊ゴロに打ち取る。石川雄洋が難なく打球を処理し、二塁封殺を狙う。誰もが「これでスリーアウトチェンジ」と確信した。
ところが、二塁ベース上に当然カバーに入っているべきセカンド・梶谷の姿はなく、まさかの無人状態。石川は仕方なく一塁に送球したが、大竹の足がわずかに早くセーフ(記録は内野安打)。
なんとこの間に二者が生還し、気落ちしたソトは直後にも菊池涼介と丸佳浩の1・2番に連続タイムリーを浴びてしまった。
無失点でピンチを切り抜けられるはずが、二塁手がドロンと消えて悪夢の5失点…。問題のプレーのとき、梶谷はどこにいたかというと、なぜか打球と二塁ベースとは真逆の一塁方向にゆっくり移動中だった。
テレビ解説のOB・佐々木主浩氏は「セカンド、何してんですかね…」と絶句。中畑清監督も「(二塁に)カバーに入るサインを出していながら、入らなかった。あれは大チョンボ。野球人として言い訳は立たない」と激怒。即刻二軍落ちを命じた。
「何を話しても言い訳になる」とうなだれた梶谷だったが、この屈辱を見返そうと、一軍復帰後の8月に打率.389/出塁率.459の好成績を記録し、レギュラーに定着。このオフに出世番号の背番号3を勝ち取っている。
中畑監督が呆れ顔…「野球の世界にないボーンヘッド」
次も二塁手の話である。
2014年4月26日の阪神戦。1-5とリードされたDeNAは、9回にも先頭打者・上本博紀を四球で出塁させてしまう。
次打者・大和は投前に送りバント。打球を処理した山口俊は一塁に送球したが、ベースカバーに入ったセカンド・宮﨑敏郎はてっきり二塁に送球すると思い込み、ボールから目を切って二塁方向を見つめているではないか。
周囲が「ファースト!」と注意を促したときにはもう手遅れ。送球は宮崎の顔面の左側を通過すると、右翼のファウルゾーンへと転がっていった。
この間に一塁走者・上本が6点目のホームを踏み、打者走者の大和も三塁へ。まさかの拙守に足を引っ張られ、ガックリきた山口は、鳥谷敬にも左前タイムリーを許し、DeNAは1-7と大敗した。
草野球並みのお粗末なプレーを目の当たりにしたファンからは「勝つ気あるのか?ないなら辞めちゃえ!」と怒り心頭でヤジを飛ばす。
中畑監督も「野球の世界にないボーンヘッド。ショックでした」と呆れ返るのみ。試合後、宮崎に二軍落ちを言い渡した。
一軍登録からわずか2日でUターンとなった宮崎は「僕の判断ミスです」とヘコんだが、すぐに気持ちを切り替え、翌27日のイースタン・ヤクルト戦では、4打数4安打・4打点の大当たり。
「1日も早く一軍に戻るんだ」という執念とひたむきな努力が、3年後の首位打者獲得につながった。
乙坂智はミスで“ランニング本塁打”を許すも…
梶谷や宮崎とは対照的に、チョンボを犯した試合ですぐにミスを取り返したのが乙坂智だ。
2018年9月27日の阪神戦。アクシデントが起きたのは、2-0とリードした5回の守りだった。
二死一塁で大山悠輔が左中間にライナー性の飛球を放つと、センター・乙坂が果敢にダイビングキャッチ。スリーアウトチェンジ…と思われた。
だが、打球がショートバウンドしてグラブに入ったとして、判定はフェア。VTRでも、グラブに引っかかったボールが地面に着いているかどうか極めて微妙なタイミングに見えたが、いずれにしてもすぐざま返球しなければいけない場面だった。
ところが、捕球の際に左手首を捻った乙坂は、あまりの痛さにボールを持ったまま、その場にうずくまっていた。ダイレクトキャッチと思い込んだのがアダとなったというわけだ。
この間に一塁走者・糸原健斗に続いて、大山も生還。2-2の同点となり、記録はランニング本塁打となった。
アレックス・ラミレス監督はリクエストを要求したが、判定は変わらない。乙坂も呆然と「2」が記録されたスコアボードを見つめるばかりだった。
このプレーで勢いづいた阪神は、6回に梅野隆太郎のタイムリーで3-2と逆転。「あれさえなければ…」と悔やまれたが、乙坂は「ああいう形になってしまい、出してもらっている以上、ベストなプレーをしようと思った」と雪辱に燃えた。
そして、2-3の7回一死一・三塁。一度は代打を考えたラミレス監督だったが、乙坂をそのまま打席に送り出し、名誉挽回のチャンスを与える。
ここで見事、男の意地を見せ、能見篤史の初球・内角直球を右前に同点打。自らのミスをバットで取り返した。
乙坂の一打で流れを再び引き寄せたチームは、8回にもネフタリ・ソトの決勝ソロが飛び出し、4-3で勝利を収めている。
あれから3年、まだレギュラー獲りをはたせない乙坂だが、そろそろ飛躍のきっかけを掴んでほしいところだ。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)