コラム 2021.07.22. 07:07

達川に石原、會澤も…広島は捕手にまつわる「珍事件」の宝庫だった!

無断転載禁止
広島の捕手と珍プレーは強い結びつきが…?

超レア!「インフィールド・サヨナラ劇」


 プロ野球の長い歴史の中で起こった「珍事件」を球団別にご紹介していくこの企画。

 第5弾は、広島東洋カープ編だ。




 “グラウンドの詐欺師”の異名をとった広島の捕手をご存知だろうか。

 達川光男は通算1334試合に出場した名捕手である一方、当たってもいないのに「当たった、当たった!」と死球をアピールしたり、ヤクルト戦で大杉勝男を“石ころ”呼ばわりして頭にゴツンとゲンコツを食らったり、試合中にコンタクトレンズを落として両軍総出の“大捜索劇”を繰り広げるなど…。まさに珍プレーの帝王でもあった。

 そして、数あるエピソードの中でも、最もファンの記憶に残る珍プレーが、1991年6月5日の大洋戦(横浜)で演じた“インフィールド・サヨナラ劇”である。



 2-2で迎えた9回裏。広島は3四球で一死満塁のピンチを招くが、次打者・清水義之は、紀藤真琴の初球を三塁ライン付近に打ち上げてしまう。

 打球は達川が懸命に差し出すミットをすり抜けるように、フェアグラウンドに高く弾んだ。

 すぐさまボールを掴んだ達川は、本塁ベースを踏んだあと、ボールを一塁に転送。併殺でスリーアウトチェンジになった…と思われた。

 ところが、谷博球審は三塁走者・山崎賢一のホームインを認め、ゲームセットを宣告するではないか。


 一体、なぜか…? 

 実は、清水の打球はインフィールドフライが宣告されており、達川がダイレクトキャッチしなくてもアウト。

 また、三塁走者の山崎は進塁義務がないため、本塁ベースを踏んでも封殺にはならず、タッチしなければアウトにできなかった。

 味方のピンチを救ったはずが、思わぬサヨナラ負けを招く結果になった達川は「何であんなことやったんや、と悶々としているうちに朝になっとった」。

 しかし、広島は25年後の2016年5月4日、くしくもインフィールドフライ絡みの珍サヨナラゲームで巨人に勝利。チームは見事、先輩の無念を晴らしている。


自力で7打席連続四球の“珍記録”


 広島の捕手は、達川に限らず、不思議と珍プレーや珍記録にご縁がある。

 達川の控え捕手だった堀場英孝は、1985年5月1日・ヤクルト戦の第3打席から2打席連続四球で出塁すると、翌2日も達川に交代するまで3打席連続四球。さらに、同3日のヤクルト戦でも2打席連続で四球を記録し、通算7打席連続四球となった。

 当時は、1984年の掛布雅之(阪神)と宇野勝(中日)の10打席連続四球がプロ野球記録だったが、1988年の松永浩美(阪急)の11打席連続四球も含め、これらはいずれもタイトル争い絡みで勝負を避けられた結果だった。堀場のように、7番打者が自力で7打席連続四球を選んだのは、ある意味、価値ある記録と言えるだろう。

 ちなみに、堀場は7回の3打席目で右飛に倒れ、記録がストップした。


石原慶幸の“騙しテク”


 達川同様、“騙しのテクニック”で数々の珍プレーを披露したのが、平成時代の後半に正捕手を務めた石原慶幸だ。

 2006年9月7日の横浜戦では、痛恨のサヨナラ打撃妨害でチームを敗戦に追いやったものの、2011年5月14日の巨人戦では、サヨナラ押し出し死球で5年前のリベンジを果たしている。

 さらに、2013年5月7日のDeNA戦では、捕球し損ねたボールを見失ったにもかかわらず、足元の砂を掴んで一塁走者の二進をハッタリで阻止。「一握の砂事件」で注目を集めた。


 そんな石原が「二度打ちバント」で物議を醸したのが、2011年4月28日の阪神戦だ。

 2-0の6回、広島は先頭の井生崇光が右前安打で出塁。次打者・石原は送りバントを試みたが、数十センチ浮き上がる小フライになった。

 阪神の捕手・城島健司が捕球しようとミットを差し出すと、石原はそれを遮るように、もう一度バットにコツンと当て、打球は地面にポトリ。

 故意の二度打ちと認められればアウトだが、嶋田哲也球審は「城島のファウルゾーンでの落球で、二度打ちではない」としてファウルをコールした。

 これに対し、阪神の真弓明信監督は「審判は見えていないでしょう。あれだけ(打球が)上がっているんだから、打席の中にいても、アウトでしょ。故意としか考えられない」と誤審をアピールしたが、判定は変わらない。

 命拾いした石原は、打ち直しの打席で右前安打を放ち、貴重な3点目につなげた。

 また、2017年5月14日の巨人戦では、スクイズを空振りしたにもかかわらず、ワンバウンドの暴投に乗じて走者2人が生還する「空振り2ランスクイズ」も演じ、2度打ちに続く結果オーライの“珍バント”で名を上げた。


會澤翼の“体当たり”野球人生


 最後は現在の正捕手である會澤翼のエピソードも。

 昨季も3年連続の2ケタ死球となるリーグトップの11死球を記録と、もともと死球の多い選手だが、2012年8月2日のDeNA戦で山口俊(現・巨人)から顔面に死球を受けて鼻骨骨折の重傷を負うなど、頭部死球もこれまでに4回ある。


 二軍時代の2007年5月2日・サーパス(※オリックス二軍)戦では、近藤一樹に9回二死までパーフェクトに抑えられたところで、27人目の打者として登場。

 たちまち2ストライクと追い込まれ、完全試合まで“あと1球”となったが、なんと3球目が頭部を直撃する死球に。近藤はまさかの危険球退場。結果的に會澤が体を張ってパーフェクトを阻止した。

 「死球を怖がっていては、飯は食べることができない」と、しっかり踏み込んでいく打撃スタイルを信条とする男だが、一歩間違えれば選手生命にも影響しかねないだけに、ボールの避け方にも磨きをかけてほしいものだ。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)

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