「2年目のジンクス」を感じさせない活躍
今季、広島の開幕投手を任されたのは、エース・大瀬良大地だった。しかし、大瀬良がケガにより離脱し、復帰後も長く勝てない時期が続いたこともあり、広島のエースの座を2年目の若き右腕・森下暢仁が奪いつつある。
ただ、その森下の活躍に対して、ファンやメディアのなかにはどこか「森下ならこれくらいやってあたりまえ」、それどころか「昨季に比べたら物足りない」といった感覚があるようにも感じられる。
昨季の森下は18試合に登板して10勝3敗、防御率1.91をマークし、新人王を獲得した。その活躍が突出していただけに、「森下ならあたりまえ」という感覚があることにはうなずける面もある。しかし、今季も森下の成績はリーグ屈指のものだ。チームの低迷もあって勝ち星こそ6勝止まりだが、防御率2.29は、青柳晃洋(阪神)の「1.79」に次ぐ堂々のリーグ2位である。
そもそも、新人王を獲得するような抜きん出た数字を残す選手だからこそ、その翌年の数字は下がって見えても当然のこと。事実、過去の新人王獲得投手のほとんどが、翌年には成績を落としている。球界に「2年目のジンクス」なんて言葉が根づいているのもそのためだろう。
森下の活躍は決して「あたりまえ」ではない
過去10年における新人王獲得投手の成績を振り返ってみても、新人王を獲得したシーズンの翌年に現在の森下の防御率をしのぐ数字を残した投手は、誰ひとりとしていない。それを考えても、森下は10年にひとりの逸材といえるのではないだろうか。
その森下の投球を表す言葉のひとつが、「安定感」だろう。先発試合のうち、6回以上を投げて自責点3以内に抑えた試合の割合であるQS(クオリティ・スタート)率を見てみると、昨季も森下は77.8%(QS14試合/先発18試合)という優秀な数字を残していた。しかし、今季はその数字をさらに大きく上まわり、ここまでのQS率は92.3%(QS12試合/先発13試合)。これは12球団トップの数字である。
長いシーズンには、どんな選手にも必ず好不調の波がある。そのなかでも、超高確率で確実にゲームをつくるという、老練ともいえる投球を続けているということ。そんな安定した投球内容や、いまやエースといえる存在となったこともあって、「森下ならあたりまえ」という感覚がファンやメディアにあるのかもしれない。
だが、こうして実際に数字を見てみると、それこそ新人王を獲得するような突出した選手を評する常套句である「新人らしからぬ」ではないが、「2年目らしからぬ」投球を続けているのが森下という投手であり、このことは決して「あたりまえ」ではないのだ。
※数字は前半戦終了時点
文=清家茂樹(せいけ・しげき)