コラム 2021.08.02. 21:00

東北にまた怪物誕生の予感【白球つれづれ】

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ノースアジア大明桜・風間球打投手 [写真提供=プロアマ野球研究所]

白球つれづれ2021~第31回・続・東北怪物列伝


 全国高校野球選手権大会の地方予選は2日、東西東京の2校が決定し、これで夏の甲子園に出場する代表49校が出揃った。本戦は9日に開幕、16日間に及ぶ熱闘が予定されている。

 コロナ禍で2年ぶりに開催される夏の甲子園だが、その影響は今年も色濃く残っている。予選段階ではセンバツの優勝校である東海大相模や甲子園の常連、石川の星稜らが感染者を出して出場辞退に追い込まれた。鳥取では米子松陰が一度は辞退に追い込まれたが、主将のツイートを機に世論を動かし、出場が認められるなど、悲喜こもごものドラマが生まれている。

 甲子園でもすでに無観客開催(一部関係者は除く)が決まっており、全国的な感染は依然として拡大状況にある。この先も予断は許さない。“非常事態下の甲子園”となりそうだが、オリンピック同様、見る者に感動を与える熱戦を期待したい。


コロナ禍の夏と躍動する逸材たち


 いつの時代にも話題を呼ぶ「怪物候補生」たちにとっても、厳しい夏となった。

 センバツでプロのスカウトが熱視線を送った小園健太(市立和歌山)や畔柳亨丞(中京大中京)投手らの150キロ右腕が予選で涙をのんだ他、中学時代から怪童の呼び声が高く、今秋ドラフトの目玉と目される森木大智投手(高知)も明徳義塾の厚い壁に甲子園の道を断たれた。

 こうした中で、今大会の目玉と目されるのが秋田大会を勝ち抜いたノースアジア大明桜の風間球打(きゅうた)投手だ。

 県大会からプロ各球団スカウトが集結する逸材は、秋田戦で従来の自己最速を4キロ更新する157キロの剛速球を披露。2019年の大船渡・佐々木朗希(現ロッテ)の163キロ、12年の花巻東・大谷翔平(現エンゼルス)の160キロには及ばないものの、そのポテンシャルの高さを実証した。

 甲子園では優勝の本命と目される大阪桐蔭に関戸康介、松浦慶斗のWエースも前評判が高い。しかし風間はそれ以上の素材と評価する関係者も多い。

 前述の大谷、佐々木に加えて菊池雄星(現マリナーズ)など、近年は東北地区に怪腕投手が数多く生まれている。風間の場合は山梨出身の“野球留学組”だが、一昔前には「野球不毛の地」と呼ばれた東北勢の躍進は目覚ましいものがある。


佐々木監督の功績


 指導者の側面から見れば、花巻東・佐々木洋監督の存在は大きい。今年の大リーグ・オールスターには、菊池、大谷の教え子が揃って出場。大谷は菊地に憧れて花巻東に入学、その大谷の姿に刺激を受けたのが佐々木である。

 佐々木監督の指導法と言えば、野球にとどまらず人間教育にも力を注いでいる点が挙げられる。大谷が今でもグラウンドのゴミ拾いを当たり前のようにやるのは、高校時代の「目標シート」の作成と無縁ではない。

 「体づくり」「人間性」など、9個の自己指針を作り、さらに部門ごとに9個の自己目標を書き込む。大谷は「運」の項目にゴミ拾い、挨拶、部屋掃除などを記している。今では全米のファンに愛される大谷の人間性は、家族と指導者によって形成されたことがわかる。

 もう一つは常識を疑い、限界を突破する指導だ。

「2メートル飛ぶノミに1メートルのふたをしたらどうなりますか? 1メートルしか飛ばなくなるんです。そして、ふたを外しても1メートルしか飛ばなくなる。指導者が限界を決めてしまうと恐ろしいんです」(7月16日付スポーツニッポンより)。

 素晴らしい選手の素材に、目標設定を明確にすることで怪物たちは誕生した。

 東北の各校に散らばる“野球留学組”が、この地方のレベルを引き上げた点もあるだろう。仙台育英を頂点とした全国区の強豪が生まれることで、より高い競争を生んでいる点も見逃せない。今では東北勢との対戦を「組し易い」と考える対戦校はいなくなったと言っていいだろう。


東北怪物列伝はまだまだ続く!?


 ちょっと「先物買い」になるが、花巻東には1年生の怪物候補生もいる。佐々木麟太郎選手。父は洋監督だ。183センチ、117キロの巨体から放たれる打球はすでにチームメイトからも一目置かれるほど。5月の県大会、平舘戦では投げては先発、打っては3ランを2発と言うから、大谷並みのスケールだ。

 甲子園行きは逃したものの県大会終了時で高校通算22本塁打。この先、清宮幸太郎選手(早実から日本ハム)の持つ111本塁打の高校記録にどこまで迫れるか。「親子鷹」の今後にも注目したい。

 2018年夏。金足農高は吉田輝星投手(現日本ハム)を擁して準優勝、甲子園に秋田旋風を巻き起こした。あれから3年、剛腕・風間球打の名前が広く認知された時、甲子園の怪物列伝に新たな1ページが記されるはずだ。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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