盗塁の損益分岐点は一般的に盗塁成功率70%
選手の走塁意識向上を徹底する辻発彦監督の就任により、それ以前にはリーグ下位だった盗塁数をリーグトップの数字に押し上げ、2018年、2019年とペナントレースを連覇したのが西武というチームだ。
たとえ二死からでも、ひとつの出塁をきっかけにチャンスを広げて得点につなげ、ひいてはチームを大きく変革させるという可能性すら秘めるのが盗塁である。
一方で、失敗してしまえば自ら得点機をつぶしてしまうリスクもともなう。一般的に盗塁の損益分岐点は盗塁成功率70%だとされる。「盗塁成功率が7割を切るようなら、盗塁しないほうがいい」というわけだ。
今季、その盗塁成功率において驚異的な成績を残そうとしているふたりの選手がいる。中野拓夢(阪神)と和田康士朗(ロッテ)である。
70%が損益分岐点であると同時に、優秀かどうかの判別基準ともされる盗塁成功率において、ここまでの中野の数字は94.1%(16盗塁/17盗塁企図)、和田に至っては94.4%(17盗塁/18盗塁企図)を誇る。
シーズンの残り試合数は阪神が59試合、ロッテが60試合だということを考えれば、ふたりとも20盗塁以上をマークすることはまず間違いないだろう。
そして、過去10シーズンを振り返ってみると、20盗塁以上をマークしたのべ109人の選手のなかで94%以上の盗塁成功率を残した選手は誰ひとりとしていない。
過去10シーズンでは、2016年の山田哲人(ヤクルト)が記録した93.8%(30盗塁/32盗塁企図)が最高の数字だ。
「出れば走る」という姿がファンを盛り上げる
このまま中野と和田が高い数字をキープすることができれば、過去10年にわたって誰も残し得なかった数字をふたりの選手がそろってマークするということになる。これはまさにレアな記録だ。
もちろん、打率などとちがって分母が小さいためにひとつの失敗で数字はがくんと落ちるし、シーズン途中で過去の成績と比較することにはあまり意味もないかもしれない。
ただ、それでもふたりには期待したい。中野はルーキーであり、和田は育成枠からシーズン途中に支配下選手登録された昨季に一軍デビューを果たしたばかりの選手である。
そもそもスリリングな盗塁というプレー自体が球場を沸かせるうえ、若いふたりが「出れば走る」という姿を見せ、かつ超高確率で盗塁を成功させるとなればファンは大いに盛り上がる。
シーズンが終わったときにどんな記録を残してくれるのか。セ・パの若きふたりの韋駄天のレア記録達成に期待したい。
※数字は前半戦終了時点
文=清家茂樹(せいけ・しげき)