熱男は史上2人目の…
プロ野球の長い歴史の中で起こった「珍事件」を球団別にご紹介していくこの企画。
先月はセ・リーグ6球団にフォーカスを当てたが、8月はパ・リーグの各球団を取り上げる。今回は福岡ソフトバンクホークス編だ。
この10年で日本一7回と圧倒的な強さを誇るソフトバンク。
充実したチーム力を象徴するかのように、黄金期の2010年代は“珍プレー”も強烈なインパクトを残したものが多い。
今季16年目のベテラン・松田宣浩が、オリックス時代のイチロー以来の珍事を実現したのが、2014年5月6日の日本ハム戦だ。
1点を追うソフトバンクは9回裏、内川聖一・李大浩・長谷川勇也の3連打で同点に追いつき、なおも一死二・三塁とサヨナラのチャンス。
だが、次打者の松田はカウント1ボール・2ストライクから増井浩俊のフォークを空振り。三振で二死…と思われた。
ところが、内角低めに落ちたボールはワンバウンドして捕手・大野奨太のミットをはじくと、バックネットへと転がっていくではないか。
松田はグルグルと腕を回し、三塁走者・明石健志(※李の代走)に本塁を突くよう指示。明石が本塁を駆け抜けた瞬間、1994年のイチロー以来、史上2度目となる“振り逃げサヨナラゲーム”が成立した。
期せずしてヒーローになった松田は「えっ?史上2度目なの?いや、打って決めたかったなあ。何と言っていいのか…。複雑ですね」とコメント。
つづけて、「三振して頭が真っ黒。後逸してさらに真っ白。ようわからんかった。だって、一死二・三塁から三振ですよ。勝ち越せなかったら延長になってたかもしれない。左はうれしい。右は悔しい。半分マンですわ」と、ジョークまじりに自らの胸を指差した。
1球で3人を撃ちぬいた魔球?
死球が一度に3人を直撃する珍投球を披露したのが、ジェイソン・スタンリッジだ。
2015年5月10日の楽天戦。初回から打者3人に対してカウント3ボール・0ストライクを記録するなど、制球の定まらないスタンリッジは、2回になっても「行き先はボールに聞いてくれ」状態。
先頭のウィリー・モー・ペーニャに対し、1ボール・1ストライクから投じた3球目の142キロ直球は内角に大きくそれ、ペーニャの左足ふくらはぎ付近を直撃した。
さらに、ピンポン玉のように跳ね上がったボールは捕手・鶴岡慎也の左腕に当たっただけでなく、杉本大成球審の胸にも相次いでゴツーン!
最初に当たったペーニャは痛がる素振りをまったく見せず一塁に向かったのに、当たり所の悪かった鶴岡と杉本球審は身をよじるようにして痛さをこらえる羽目になった。
直後、ペーニャは二盗失敗。後続の2人も凡退で無得点と楽天の拙攻に助けられたスタンリッジは、尻上がりに調子を上げて8回をわずか1失点。終わってみればシーズン4勝目を挙げた。
「立ち上がりに(制球が)ばらついたほうが、ゲームを作れる」とご機嫌の本人だが、相手打者のみならず、捕手と球審も「勘弁して!」が本音だろう。
柳田悠岐、2度の“認定二塁打”
ドームの天井直撃弾といえば、西武時代のアレックス・カブレラや、巨人時代の松井秀喜を連想するファンも多いはずだが、実は柳田悠岐も彼らに匹敵する“伝説の打球”を打ち上げている。
2016年8月20日の日本ハム戦。1回二死、柳田はカウント2ボール・2ストライクから高梨裕稔の5球目、高め直球をフルスイング。打球は一二塁間の上に高々と上がった。
セカンド・田中賢介、センター・陽岱綱、ライト・浅間大基がグラブを構えながら高さ63メートルの天井を見上げるなか、天井の中に消えた打球は数秒のインターバルを経て、セカンド付近に落下。田中賢が捕球の衝撃で倒れ込みながらも、ノーバウンドキャッチに成功した。
札幌ドームのローカルルールでは、天井に当たったり、隙間に入り込んだ打球がすぐに落ちてきた場合はインプレーになるが、隙間やスピーカーに挟まって数秒後に落ちた場合は、落下後に野手が捕球しても「ボールデッド」として二塁打になる。
審判団の協議後、責任審判の有隅昭二(二塁塁審)が「ただ今の打球は天井の中に入り込んだので、二塁打として試合を再開いたします」と説明した。
だが、珍事は1度ならず2度も起きた。
5回の3打席目。柳田はカウント1ボール・1ストライクから高梨の145キロ直球を左方向に流し打ち。三遊間の上に高々と上がった打球は、再び天井の中に入り込んだあと、数秒後に落下。レアードのグラブにスッポリ収まった。
再び有隅塁審がマイクを握り、「ただ今の打球は天井の間に入りまして、直ちに落ちてこなかったので、グラウンドルールにより、二塁打といたします」とアナウンス。
打球がドームの天井を直撃することすら滅多にないのに、1試合に2度も打球が天井の隙間に入り込んでしまうのは、まさに珍事中の珍事。本人も「ラッキー。それしかないでしょ」とニコニコ顔だった。
なお、柳田は昨年も、7月18日のオリックス戦で京セラドーム大阪のライトスタンド上部に設置された天井照明を直撃する推定飛距離150メートル弾を放っており、“ギータ伝説”に新たな1ページを加えている。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)