東京学館高のドラフト候補
連日、熱戦が繰り広げられている『第103回全国高等学校野球選手権大会』。
2年ぶりの開催となった“夏の甲子園”は、天気に恵まれず数多くの中止・順延に見舞われる異例の戦いとなっているが、難しいコンディションの中でも球児たちは見る者の胸を熱くするような好プレーを見せている。
そんな中、当然ながら甲子園でプレーができる高校球児はほんのひと握り…。
プロアマ野球研究所では、地方予選で涙を呑んだ有力選手も紹介していきたい。
今回は、甲子園出場歴のない東京学館高でプロからの注目を集める強打のショート・粟飯原龍之介(あいばら・りゅうのすけ)を取り上げる。
▼ 粟飯原龍之介(東京学館)
・遊撃手
・180センチ/82キロ
・右投左打
<各塁へのベスト到達タイム>
一塁到達:4.07秒
恵まれた体格からダイナミックな動き
千葉県の印旛郡酒々井町にある東京学館高校。甲子園出場こそないものの、島崎毅(元日本ハム)や相川亮二(元横浜)、石井弘寿(元ヤクルト)といったプロ野球選手を輩出している。
近年はなかなか上位に勝ち進むことができずに苦しんでいたが、昨年秋の千葉県大会では、準優勝を果たし関東大会に出場するなど復活の兆しを見せている。
そんなチームでプロから高い注目を集めているのが、大型遊撃手の粟飯原龍之介だ。
まず目についたのが、シートノックでの動き。体つきは野手の中でひと際目立っていた。グラウンドへ駆け出していく姿を見ても、跳ねるような躍動感があり、運動能力の高さが伺える。
バウンドを合わせる時にも重心が上下動することなく、スムーズに素早く動くことができており、打球に対する一歩目の反応が速い。三遊間の深い位置から楽々とファーストまで強いボールを投げられるスローイングの強さも申し分なかった。
グラブさばきや細かいステップワークはまだ改善の余地はありそうだが、大型でダイナミックに動く守備は見ていて楽しさすら覚えるものである。
チャンスを作る意識の高さ
筆者が実際にプレーを見たのが、6月15日に行われた練習試合。「1番・遊撃」で先発すると、まず目に付いたのがスピードだった。
第1打席に四球を選んで出塁すると、すかさず盗塁を決めて後続のタイムリーで先制のホームイン。第5打席では四球で出塁して二盗・三盗を成功させ、この日は合計で3盗塁をマークした。
2つ目の二盗の時はスタートが少し遅れたように見えたが、それでも塁間の中間からどんどん加速し、スライディングでもスピードが落ちることがなかった。
さらに、第4打席のセカンドゴロでは、最後に少し流しながらも一塁到達は4.07秒という上々のタイムを記録している。単純な脚力はもちろんだが、次の塁を積極的に狙う姿勢もあり、トップバッターとしてチャンスを作る意識の高さが十分に感じられた。
運動能力の高さだけでなく、バッティングにも技術的な良さとパワーがあるというのが大きな魅力。
第2打席で変化球をしっかりと呼び込むライト前ヒットを放つと、続く第3打席ではストレートを高々と打ち上げてライトスタンドへ運んでみせた。
打った瞬間は一瞬上がり過ぎたと感じる当たりだったが、長い滞空時間の打球でフェンスを越えるような飛距離が出るというのは、ヘッドがよく走っている証拠である。
トップの形を作る時に、一瞬バットが寝るような動きがあるのは気になったが、全体的にはタイミングをとる動きに無駄がなく、振り出しの鋭さとリストの強さには目を見張るものがある。右足を踏み出すステップの動きが慎重で、緩急への対応力も感じられた。
“野球偏差値”の高さを感じるプレーも
さらに感心したのが、ホームランを放った後の第4打席だった。
無死二塁の場面だったが、追い込まれてから膝を上手く使って変化球についていき、進塁打となるセカンドゴロを放ったのだ。
この時点で、チームは大量リードしていた。前の打席でホームランを放っているのであれば、なおさら自分本位のバッティングになりそうだが、そんな状況でもしっかりチームバッティングができる。こうした点もまた、“野球偏差値”の高さを表していると言えるだろう。
試合後、市川知明監督に粟飯原について話を聞くと、中学時代は硬式の成田シニアでプレーしていたが、当時は「9番・二塁」で体が細く、足の速さだけが目立つ選手だったという。
わずか2年でここまでの強打のショートになるとは、市川監督も思っていなかったとのことで、改めて粟飯原の成長スピードに驚かされた。
ちなみに、練習試合にもかかわらずネット裏には3人のスカウトが視察に訪れており、その時から注目度の高さが感じられた。ショートとしての総合力は全国で上位であり、秋のドラフト会議に向けて覚えておいてもらいたい選手の一人であることは間違いない。
☆記事提供:プロアマ野球研究所