矢野監督に誓ったのは「13」
初めて見た“景色”にも、淡々と言葉を重ねた。
24日のDeNA戦で、プロ6年目にして初のシーズン10勝をマークした青柳晃洋。2019年は9勝、昨年も7勝とはね返されてきた壁をぶち破っても、「何よりチームが、僕が投げている時に勝てるというのが嬉しいことなんで。その結果、2ケタというのがついてきた」と舞い上がることはなかった。
毎回のように走者を背負って7回2失点。
「本当に野手に助けられた」と振り返ったように、会心のピッチングでなかったこともあるだろう。
それでも、言葉にそれほど高揚感が伴わなかったのは「大黒柱」としての自覚に他ならない。
チームは巨人、ヤクルトと熾烈な優勝争いを展開中。キャリアハイの余韻に浸ってはいられず、これからしびれる試合でのマウンドも待っている。
自身に1勝が付くということは、チームも白星を積み上げ頂点に一歩近づく。その事実が今季だけで10度を数えたことに喜びを見出した。
そもそも、シーズン前から掲げるのは矢野燿大監督の前で誓った「13勝」。
登板後、節目にたどりついて1時間もしないうちに「通過点としてまた来週から頑張っていきたい」と、チームの勝利を伴う“11勝目”に視線を向けていた。
挫折も乗り越えて…
“五輪ショック”も自力で払拭して見せた。
侍ジャパンにチームメイトの梅野隆太郎、岩崎優とともに選出。初見での攻略が困難に見えた対外国人への秘密兵器として、稲葉篤紀監督の期待も大きかった。
しかし、慣れない中継ぎ起用だったとはいえ、力を発揮できず2試合の登板で1回2/3を5失点…。チームは金メダル獲得も、個人的には悔しい初の国際舞台となった。
陽気な性格で、普段はチームメイトを和ませるキャラ。それでも、五輪での苦投には岩崎が「顔面蒼白で声をかけられる状態じゃなかった」と振り返るほど、落胆していたようだ。
体力面でも、前半戦を終えて球宴に出場してから、そのまま代表の強化合宿に参加。ハードなスケジュールでの疲労など、決して少なくない不安要素を抱えての後半戦だったが、心配無用のパフォーマンスで矢野監督をはじめ、周囲を安心させている。
ドラフト5位以下でのシーズン10勝は球団史上初。
京セラドーム大阪のお立ち台で快挙を伝えられると、「順位に関係なく頑張れば活躍できるっていうのをこれからプロ入る選手に見てもらえたら良いなと思います」と“後輩たち”に呼びかけた。
サイドとアンダーの間「クォータースロー」で切り開いてきた道は、誰にでも歩めるものではない。
ただ、昨年は自身のInstagramで「サイドスローにしたのだけど、何かアドバイスくださいとか、子供の指導になんて教えていいかわからないなどの、質問が来ることがあるのですけど、何かフォームについて聞きたい事ってありますか?」と、サイドスローに挑戦する野球少年・少女や、その指導者に対して質問を募集。未来を見据えて“横の繋がり”にもしっかりと目を向けている。
10勝で満足してはいられない。
リーグ優勝、そして球界最高の変則投手へ…。27歳が勝たなければいけない理由は、まだたくさんある。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)