九州が誇る大型右腕
連日、熱戦が繰り広げられている『第103回全国高等学校野球選手権大会』。
2年ぶりの開催となった“夏の甲子園”は、天気に恵まれず数多くの中止・順延に見舞われる異例の戦いとなったが、29日がいよいよ大会最終日。雨に水を差されることなく、球児たちは見る者の胸を熱くするような好プレーをたくさん見せてくれた。
そんな中、当然ながら甲子園でプレーができる高校球児はほんのひと握り…。
プロアマ野球研究所では、地方予選で涙を呑んだ有力選手も紹介していきたい。
今回は、好投手の多い九州地区の中でも将来性の高さはトップクラスと評判を集めた大型右腕を取り上げる。
▼ 黒木 優(九州文化学園)
・投手
・184センチ/78キロ
・右投右打
<主な球種と球速帯>
ストレート:136~147キロ
カーブ:108~113キロ
スライダー:118~122キロ
カットボール:121~124キロ
チェンジアップ:123~125キロ
敗れるも「素材の片鱗」は見せた
九州文化学園は長崎県佐世保市にある私立高校。創立当時は男女共学だったものの、1956年に女子校へと移行し、2006年に再び男女共学に戻った。野球部の創部は2009年と歴史は浅いが、ここ数年は徐々に力をつけてきている。
そんな新興勢力でプロから高い注目を集めているのが、エースの黒木優だ。
黒木の評価が一気に高まったのが、3月に行われた春の長崎県大会のこと。2回戦で強豪の創成館に敗れたものの、6回を投げて3失点の好投を見せ、ストレートの最速は147キロをマークした。
この試合以降、スカウト陣から黒木の名前を聞く機会が一気に増えたことは間違いない。そんな黒木の実力を確かめるべく、筆者は7月14日に行われた長崎大会2回戦に足を運んだ。
この日の対戦相手は、県内で甲子園最多出場を誇る強豪の海星ということもあり、スタンドには8球団のスカウト陣が集結。なかでも、阪神は和田豊テクニカルアドバイザーを含め、4人体制という熱の入りようだった。
黒木は立ち上がりに2本の安打と犠飛で1点を先制されたものの、2回以降は粘りのピッチングを披露。4回には自らのバットで満塁の走者を一掃する3点適時二塁打も放ち、一時は逆転にも成功した。
しかし、疲れの見えた7回に死球と3連打から崩れてこの回の途中で降板。最終的に6回2/3を投げて5失点と逆転負けを喫した。
この日のストレートの最速は140キロ。自己最速には遠く及ばず、アベレージも130キロ台中盤から後半と数字的には物足りなさが残ったとはいえ、それでも随所に素材の片鱗は見せた。
フォームで目立ったのが、左右に体が振られることなく、しっかりと上から腕が振れるという点である。
速いボールを投げようとすると、どうしても腰を回して肩を左右に振って勢いをつけることが多くなるが、黒木の場合はそのような動きがなく、左肩の開きもよく我慢している。そのため、左右のコントロールがぶれず、右打者にも左打者にも外角だけでなく内角に腕を振って速いボールを投げることができる。
一方で、課題に感じたのが下半身と上半身の連動性だ。
体重移動が不十分なまま上半身の力で腕を振ろうとしてしまい、地面から受けた力が上手くボールに伝わらず、ロスしているように見えた。
左右のブレはなくても上下のブレは大きく、ワンバウンドや高めに浮くボールも目立つ。変化球もスライダーやカットボールの軌道は悪くなかったが、スピードは120キロ台前半が多く、打者からは怖さを感じるようなボールではなかった。
この日のピッチングだけを見ると、同じ九州地区で注目を集める山本大揮と柳川大晟(ともに九州国際大付)や春のセンバツで活躍を見せた毛利海大(福岡大大濠)などと比べて現時点での実力は劣るというのが正直な印象。
それでも、大型ながらフォームにそこまで大きな欠点がなく、潜在能力の高さというのは感じることができた。
これからその体に見合うだけの筋力がつき、フォームの連動性がアップすれば、“大化け”というべき驚くような成長を見せる可能性も高い。
前述したように春は見事なパフォーマンスを見せているだけに、その将来性に賭ける球団が出てくることも十分に考えられるだろう。
☆記事提供:プロアマ野球研究所