白球つれづれ2021~第35回・記憶と記録に残る夏
さすが、イチロー効果? 第103回全国高校野球選手権大会は智弁和歌山高が奈良の智弁学園との史上初となる兄弟校決勝戦を制して栄冠を手にした。
昨年暮れ、同校を訪れたあのイチローさんは3日間にわたって熱烈指導。最後に「ちゃんとやってよ!」の言葉を残したが、選手たちはまさに教えを守って頂点まで駆け上った。
準々決勝では4試合中3試合がサヨナラ決着。準決勝はこれまた史上初となる近畿勢の独占など、終盤にきて盛り上がりを見せた今大会だが、同時に数々の問題にも直面した。
コロナ禍による2年ぶりの開催は地方大会の時点から東海大相模高や星稜高などの強豪校が部内のコロナ感染などで出場辞退を余儀なくされる。原則、無観客で行われた本大会でも宮崎商高や東北学院高が同様の理由で辞退。感染予防のガイドラインに沿って実行しても防ぎようがないのがウィルスの恐ろしさだ。
近畿勢の上位独占は必然?
一方で、台風と長雨により7度の順延に祟られた大会としても記憶と記録に残るだろう。当初の予定では8月9日に開幕して16日間の大会日程が組まれていた。順調なら24日決勝戦の予定は29日まで延びている。
この間、関係者は右往左往。中止に次ぐ中止で日程変更が繰り返され、最悪の場合は準決勝と決勝のダブルヘッダー案や31日以降まで順延された場合には甲子園を本拠地とする阪神とのプロアマ同日開催までが検討されたという。
運営側だけではない。14日に初戦予定だった日本文理高(新潟)では、校長名で異例の追加募金協力が呼びかけられている。長雨の中止で初戦が20日まで延びたため経費が予想以上に膨らんでしまったのだ。選手や教職員など先乗りで甲子園入りした約30人は結局12泊を要した。
今大会では同校に限らず、応援のため前夜から甲子園入りするが雨天中止でUターンと言った事態が頻発している。練習環境も含めてグラウンド内外で被害が最小限だった近畿勢の上位独占は必然だったのかも知れない。
今夏の問題点と今後への課題
異例ずくめの大会終了後、日本高野連の八田英二会長は「前半の天候不良で大幅な日程変更や試合順番の変更を余儀なくされ、選手、学校関係者にはご苦労をおかけしました」と言及。主催者である朝日新聞社社長も「問題点や課題を洗い出して今後に生かしていきたい」と語った。
では、何が問題点であり、今後の課題となっていくのだろうか?
個人的には「夏の甲子園」のあり方自体が曲がり角に来ているのではないかと思う。コロナ禍以上に地球温暖化に伴う気候変動が従来の甲子園大会を危うくしているような気がしてならない。
世界中をパンデミックに陥れるコロナ感染はもちろん恐ろしい。しかし、医学研究が進めばやがて終息の道も見えてくる。ところが地球温暖化はもっと厄介だ。今回の長雨による長期順延は、台風とそれに続く線状降水帯が原因である。
近年の日本列島では西日本を中心に同様な天候が繰り返され、洪水や土砂崩れなどの被害が続出している。さらに、元をたどれば地球温暖化による高温多湿化が進み、米国や南欧では山火事が多発、欧州などでも洪水被害が続出している。
世界気象機関の調べでは2015年以降、地球の温度上昇は顕著で、他の調査によれば今世紀末には全世界の平均気温は2~4度上昇するというデータもある。もし、仮に今年のような異常気象が毎年のように繰り返されて、気温もさらに上昇を続ければ、この先の高校野球を「真夏の風物詩」と言っていられるのだろうか?
様々な可能性を考えるとき
高野連では、すでにいくつかの改革に着手している。投手の球数制限(1週間に500球以内)や熱中症対策などだ。しかし、これらは地球温暖化という問題の前では、ちっぽけな改革に過ぎない。これから、真に問われるのは予選を含めた開催時期や試合開始時間など根本のあり方だろう。
本来であれば、春にセンバツ大会なら秋にもう一つの大会を開催すればいい。
真夏にやるなら炎天下の午後1時から3時頃を外して午前とナイターにするのも一手。思い切って、1回戦だけはドーム球場使用はどうだろう。
選手以外の応援団らの移動、テレビ中継の問題、大会経費の増加など難問があることは重々承知している。それでも、旧態依然の開催では限界点が近づいているのも確かだ。天災は待ってはくれない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)