プロ志望を表明した188センチの大型右腕
史上初の“智弁決戦”が大きな話題となり、智弁和歌山の優勝で幕を閉じた『第103回全国高等学校野球選手権大会』。
夏の熱闘が終わると、カレンダーも9月へ。早いもので、もう1カ月もすれば、アマチュア選手たちの運命を決するドラフト会議を迎えることになる。
この夏の甲子園でも多くのスター候補が誕生したが、ドラフト会議に向けてプロから注目を浴びている球児は甲子園出場者だけではない。
プロアマ野球研究所では、残念ながら地方予選で涙を呑んだ有力選手も紹介していきたい。
今回は、この夏に青森でプロから高い注目を集めた大型右腕を取り上げる。
▼ 黒田将矢(八戸工大一)
・投手
・188センチ/82キロ
・右投右打
<主な球種と球速帯>
ストレート:136~149キロ
スライダー:122~126キロ
フォーク:128~132キロ
チェンジアップ:120~125キロ
☆クイックモーションでの投球タイム:1.31秒
見えた魅力と課題
高校野球の地方大会は、プロのスカウト陣にとっても高校生のドラフト候補をチェックする重要な場であることは言うまでもない。
ただ、各地で一斉に試合が行われるため、各球団のスカウトは全国に飛ぶ。ドラフト1位候補の試合でも、意外と全球団のスカウトが揃うケースというのは多くない。
筆者はこの夏、計17地区の地方大会に足を運んだ。その中で最も多くのスカウトが集結したのが、7月22日に行われた青森大会準々決勝・八戸西-八戸工大一の試合だった。
12球団・20人以上のスカウトが集結した大注目の一戦。そのお目当てが、八戸工大一のエース・黒田将矢である。
黒田にこれだけの注目が集まったのは、秋の県大会で早々に敗退しており、春も東北大会が中止になったため、多くのスカウトが集まる公式戦の機会が少なかったという事情もある。とはいえ、これだけのスカウトが顔を揃えるのは、やはり注目度の高さをよく表している。
黒田はこの日、「5番・右翼」で出場。しかし、先発の本間乃空(3年)が2回途中2失点で降板し、2番手の中村光希(3年)も3回に3安打を集中され、さら2点を奪われたところでライトからマウンドに上がった。
まず目立つのが、188センチという長身を持て余すことなく、大きく使って腕が振れるという点。
テイクバックの動きは少し大きく、頭を振る動きがあるが、肩の可動域が広いため引っかかることなく、高い位置から腕を振り下ろすことができている。
長身でリーチが長く、さらに全身を使って高い位置から投げ込んでくるため、打者に与える威圧感はかなりのものがある。ステップの幅も少し狭く見えたものの、左足の着地は安定しており、全体的なフォームのバランスも決して悪くなかった。
ただ、力のロスが大きいフォームで、ボールに力が伝わり切っていないというのは課題である。
この日のストレートは、自己最速の149キロに及ばない144キロ。視察に訪れていたスカウトのガンでは145キロという数字もあったようだが、全体的には140キロ台前半で勢いがもうひとつという印象を受けた。
イニングの途中でライトからマウンドに上がったという点を割り引いて考える必要はあるとはいえ、もう少しうまく力を抜いて、リリースに力を集中できるようにしたいところだ。
まさに「未完の大器」
変化球はスライダーとフォーク、チェンジアップを操り、しっかり腕を振って投げられて、コントロールもそれなりにまとまっていた。だが、スライダーで明らかに肘が下がるのは気になる点だ。
また、走者を背負うとリズムが単調になり、クイックも1.3秒台と速さがない。これも課題の一つだろう。
全体的な印象としては、まさに「未完の大器」という表現がピッタリ当てはまる。
それでも、スケールの大きさはかなりのもので、高校の先輩である種市篤暉(現・ロッテ)の3年時と比べても、黒田の方が上回っている部分は多いように見える。
チームは続く準決勝で青森山田に敗れて甲子園出場を逃したが、その素材の良さを多くのスカウトに見せられたことは間違いない。
プロ志望届の提出も済み、あとは名前が呼ばれるのを待つだけ。即戦力よりも素材型、ポテンシャルを重視する球団が、想像しているよりも高い順位で指名することも十分に考えられる。
☆記事提供:プロアマ野球研究所