コラム 2021.09.21. 07:07

「快足」「最速」「ラッキー連発」…プロ野球・ちょっと変わった“サイクル男”列伝

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塩見は史上71人目の達成者 (C) Kyodo News

1カ月足らずの間に2人も!


 ひとりの選手が、1試合のうちに「単打」「二塁打」「三塁打」「本塁打」のすべてをコンプリートする『サイクル安打』──。

 2020年シーズンは達成者が出なかったが、今年は2年ぶりに快挙の扉が開いた。




 8月25日、京セラドーム大阪で行われた阪神-DeNAの一戦。

 DeNAの「6番・二塁」で出場した牧秀悟は、第1打席からライトへの二塁打、右中間への本塁打、そしてセンターへの適時打と怒涛の3連続安打。4回でサイクルに王手をかける。

 6回の第4打席は捕邪飛に倒れるも、9回のラストチャンスでライト線に落とす打球を放つと、回転がかかっていた影響か弾んだボールは勢いよくライト最深部へ。この間に三塁まで到達し、史上70人目(75度目)、そしてルーキーとしては史上初となるサイクル安打の快挙を成し遂げた。



 すると、それから約3週間後の9月18日。今度は東京ドームで行われた巨人-ヤクルトの一戦。

 ヤクルトの「1番・中堅」で出場した塩見泰隆は、初回の第1打席で放った右安を皮切りに、3回にはあわや本塁打というライトフェンス上部の黄色い柵に当てる三塁打、そして4回には正真正銘スタンドインとなるライトへの本塁打。

 こちらも3打席で王手をかけ、6回の第4打席はレフト線を破る二塁打。足踏みすることなく4打席で決めて見せ、牧に続く今季2人目、史上71人目のサイクル安打を達成した。


 そこで今回は、今一度『サイクル安打』という記録にフォーカス。過去の歴史を振り返ってみても、なかにはちょっと変わった達成の仕方というのが何度かあった。

 ここでは、“珍サイクル”と呼ぶべき3つのエピソードをご紹介したい。


世界の盗塁王は足でもぎ取る


 まず、ひとつ目のエピソードは80年代。あと二塁打が出れば達成という場面で、自慢の快足を発揮して単打を強引に二塁打に変えてしまったのが、“世界の盗塁王”こと福本豊(阪急)だ。


 1981年5月21日の西武戦。初回に右前安打を放った福本は、3回にも右越え先制ソロ、7回の第4打席でも右中間を破る三塁打を記録し、サイクル達成まで残るは二塁打のみ。

 そして9回、先頭打者としてこの日5度目の打席に立った福本は、カウント2ストライクと追い込まれながらも、柴田保光の3球目、直球を打ち返した。

 ゴロとなった打球は、ファースト・土井正博の左を抜けて右前へ。ふつうならシングルヒット止まりなのだが、「第1歩を踏み出したときから、二塁ベースしか頭になかった」という福本は、なんと迷うことなく一塁ベースを蹴る。

 ライト・立花義家は想定外の走塁に面食らい、慌てて返球したが、こうなれば当然、心の準備ができていたほうが有利。二塁はセーフとなり、史上34人目のサイクル安打は、足で稼いだ“右前二塁打”によって達成された。


 なお、試合も阪急が4-3で勝利し、3連勝で首位・ロッテに1.5ゲーム差に。

 快挙とともにチームの勝利にも貢献した福本は「うれしいね。盗塁の記録は何回も頂いたけど、サイクルヒットはどうしてもやってみたかった。チームが大事なときに達成できて良かった」とニコニコ顔だった。


“最速記録”の持ち主は…?


 ふたつ目のエピソードは、長野県の松本市野球場が舞台。6回降雨コールドゲームにもかかわらず、ギリギリ回ってきた4打席で史上最速のサイクル安打を達成したのが、ヤクルト時代の稲葉篤紀だ。


 2003年7月1日の横浜戦。1回二死からチーム初安打となる右越え三塁打を放った稲葉は、0-5とリードされた4回の第2打席でクリス・ホルトから右越えに反撃の狼煙となる10号ソロ。さらに、一挙7得点の猛攻で11-5と逆転した5回にも、右前安打と右越え二塁打の1イニング2安打を記録。早々とサイクルの条件をクリアした。

 雨が降りつづき、いつ中止になってもおかしくない状況だったが、5回裏を守りきって何とか試合が成立。この瞬間、史上56人目の快挙が確定。直後、稲葉はライトの守備位置から全力疾走でベンチに戻り、チームメイトと歓喜のハイタッチをかわした。


 結局、試合は6回で打ち切りとなり、まさにギリギリセーフ。

 稲葉は「最速?たまたまだよ。みんながつないでくれたおかげ。でも、実感わかないなあ…」と不思議がりながらも、まんざらでもなさそう。

 若松勉監督も「よく打ったね。4打席でっていうのは珍しいんじゃないか?オレが達成したとき(1976年)は、8回だったもんな」と目を細めていた。

 ちなみに、この日は、村松有人(ダイエー)も近鉄戦で史上57人目のサイクル安打を達成。1日に2人が記録する珍事となった。


平成最後のサイクル打は“ラッキー連発”


 最後のエピソードは、虎党にとって忘れらないものではないだろうか。思いがけない幸運がいくつも重なった結果、まったく気づかないままサイクル安打を達成したのが、梅野隆太郎(阪神)である。


 2019年4月9日のDeNA戦。梅野は0-0の2回二死一・二塁のチャンスで右前にフラフラと飛球を打ち上げたが、ダイレクトキャッチを試みたネフタリ・ソトが後逸。この間に二者が生還し、打った梅野も三塁へ。これが当初の記録はエラーだったのだが、3回終了後に三塁打に訂正される。右飛のはずがエラーとなり、それが2点三塁打へと二転三転。この時点でラッキーが2つも重なっていた。

 そして4回の第2打席でも右前安打を放った梅野は、6-8とリードされた8回の第4打席で1点差に迫るソロ本塁打を左中間席に叩き込み、あと二塁打が出ればサイクル達成。

 だが、サイクルリーチとは気づかない梅野は、11-8と逆転したあと、打者一巡して回ってきた二死一・三塁の第5打席で、右中間を破る二塁打コースの打球を放ったにもかかわらず、二塁で止まることなく三塁へ。三塁打になれば、“オーバー・サイクル”で記録は幻と消えてしまう。

 ところが、この場面でも梅野はツイていた。本塁を狙った一塁走者のエフレン・ナバーロが間一髪タッチアウトになり、3アウトチェンジ。この結果、梅野の三塁打は二塁打に格下げされ、史上69人目の快挙が達成されるという、まさかの結果が待っていたのだ。


 そんな事態になっているとは夢にも知らず、ベンチに戻った梅野は「やけにベンチが騒がしいな…」と違和感を覚え、ベンチの横に祝福の花束を持った女性スタッフが控えているのを見て、キョトンとした表情になった。

 だが、周囲から「おめでとう。サイクル達成だよ」と知らされると、慌てて花束を受け取り、「メチャクチャうれしい。まさか自分がサイクルを達成するなんて思っていなかった」と最高の笑顔を見せた。

 ひょっとすると、左足親指骨折を押して試合に出場し続けた不屈の男に、野球の神様がご褒美を与えたのかもしれない。

 そして、このラッキー尽くしの快挙が、平成最後のサイクル安打になった。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)



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