「1試合、1試合です」
目の前で放たれた2本のヒットに、中日・大島洋平がやり返す。
9月21日の阪神戦(バンテリン)。3年連続最多安打のタイトルを狙う竜のバットマンは、ライバルの阪神・近本に11本差とされた。それでも5回一死一塁、秋山拓巳から右前打を放ち、今季136安打目。リーグトップの近本との差を10へ戻した。
混戦から抜け出したい…。
タイトルに手が届きそうなプレーヤーは、大島と近本のほかに佐野恵太と桑原将志、そして宮﨑敏郎というDeNAの3名か。
ここに来て近本がペースを上げて151安打。2位で並ぶ大島・佐野との差を12まで広げているが、大島は「残り試合、1試合、1試合です。取れるように頑張ります」とコメントする。
「過度にがっつかない」大島の境地
試合を消化するにつれて、胃がキリキリするようなシビれる展開。1打席の重みも増す。そこに、過去2年で味わった経験を生かす。
力みも、過度な脱力もダメ。普段通りを意識する時点で、すでに力んでいる。頼りになるものこそ、ルーティーン。新築から間もない自宅にはトレーニングルームをつくった。そこに籠る。
大島流の表現をすると「鍛えながら整える」──。
大小、役割にそってさまざまある筋肉を、体の状態をみながら鍛え、刺激を入れる。結果、多少のゆがみなら矯正できるようにもなるのだとか。
11月に36歳を迎える。1700本以上のヒットを放つヒットメーカーが行き着いた調整法。いつも通り体を動かし、気持ちを入れてグラウンドに飛び出す。
達成すれば、球団の歴史にも名前を残せる。3年連続となれば、球団では1982~1985年の田尾安志に並ぶ。
同時進行でひとつの節目とも向き合った。通算250盗塁。リーチをかけてから、複数回にわたり失敗。これまでの経験から出した答えは、「いつかできますから」。
追いかければ逃げる。スタートを切り、加速し、スライディングする。249回にわたりセーフをもぎとってきた過去が、「あと1」を過度にがっつくな、と教えてくれる。
こちらは達成すれば、球団では1966年の中利夫、1971年の高木守道、そして2009年の荒木雅博以来、史上4人目となる。
シーズンも最終盤。チーム順位とは別の戦いがある。大島にとってはヒット数と盗塁数。ジワジワと追い上げ、最後にトップに立つのは背番号8。そう決まっている。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)