コラム 2021.09.27. 19:05

「引き算」から見るペナントレース【白球つれづれ】

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白球つれづれ2021~第39回・総合力で掴んだ首位の座


 野球は団体競技である。当たり前のことだが、今年のペナントレースを見ているとそれを痛感させられる。

 27日現在(以下同じ)、セ・リーグの首位は戦前の予想を裏切ってヤクルトが走っている。直近の10連戦を7勝3分け。9月14日の阪神戦から始まった「不敗ロード」は12戦続いて8連勝中。2年連続最下位に沈んだチームとは思えぬ強さだ。

 パ・リーグではロッテの安定感が光っている。後半戦に入ると5連勝に6連勝と順調に白星を重ね、連敗は3で食い止めている。28日からのオリックス戦次第で待望の優勝マジックが点灯する。

 この両チームの共通点は意外にも図抜けたエースがいないこと。投手成績欄を見ると、規定投球回に到達する(セは8人、パは12人)顔ぶれの中に両軍投手はゼロ。「野球は投手力」と言われるが、大エースはいなくても全員の力で現在のポジションを掴み取っているのがよく分かる。

 ちなみに、チーム打率、同防御率でも両チームは各リーグのトップではない。特に投手陣では共に多くの先発陣の間隔を空けて起用しているため、規定投球回に達していない側面もある。この辺りは首脳陣の工夫とやりくり上手がうかがえる。


計算できない大きな穴


 大所帯の集団スポーツが長丁場のペナントレースを戦っていく以上、各チームともに誤算は生まれる。主力選手の故障や好不調の波、昨年からはコロナ禍による影響も大きい。

 好不調の波の代表例は阪神の佐藤輝明選手だ。8月中盤までは「打てばホームラン」の無双ぶりでチームの快進撃を支えたが、その後は打撃の調子を崩してファーム落ちも経験。一軍復帰後も快音は聞かれず、目下50打席無安打の不名誉な記録を更新中だ。巨人でも丸佳浩、ゼラス・ウィーラー選手らの調子が下降線をたどり、打順編成にも苦慮している。

 これらの現象は首脳陣もある程度は想定内だが、最も厄介なのは、ある日突然やってくる主力選手の故障である。戦ううえで「引き算」が生じるのだから優勝への青写真まで狂いかねない。

 端的な例はパの上位争いに見ることが出来る。

 楽天の絶対的守護神である松井裕樹投手が右太腿を痛めて登録を抹消されたのは8月26日のこと。一時は首位を快走したチームはその後、後任のクローザーに宋家豪、酒居知史両投手を日替わりで起用するが、打ち込まれるケースも度々あって勢いは減速。目下首位のロッテと5.5ゲーム差の3位はギリギリのポジションだ。背後からはソフトバンクが忍び寄っているため苦境に立たされている。

 オリックスでは主砲・吉田正尚選手が9月3日のソフトバンク戦で走塁中に左太腿を痛めてリタイア、打線に大きな穴が開いてしまった。戦列離脱後のチームは7勝9敗2分け。ようやく一軍に戻った吉田正は28日のロッテ戦からスタメン復帰を果たせそうだが、ここまでの不在をどれほど取り戻せるか。


ロッテの底力


 ロッテにもマイナス要因はある。今季25本塁打でチームを引っ張ってきたレオネス・マーティン選手が自打球を右足甲に当てて骨折し、離脱中。だが、打線の破壊力はなくなっても、他の戦力が出てくるのが今季の特徴だ。直近の西武戦では2番に起用した佐藤都志也が3安打、6番に昇格した藤岡裕大選手が3安打4打点の大暴れで快勝する。マーティンのマイナス分を脇役たちでプラスに転じさせてしまうあたりに強さの一端がある。

 チーム全体の戦力を考えた時、主力の故障、戦線離脱は大きな「引き算」を意味する。まして勝負所に差し掛かった今の時期は致命傷にもなりかねない。そんな時に必要なのは控え層の充実や、優勝チームには必ず現れるラッキーボーイの存在だ。それらを操るのが指揮官のやりくりである。

 ペナンレースも20〜25試合程度。どれだけマイナス要因を少なくして、プラスに転じさせられるかが勝敗の分岐点となる。言い換えれば「引き算」を最小にして「足し算」に転じさせることができるか。個人の働きはもちろん大きい。だが、それより集団が固まった時はもっと強くなれる。やはり野球は団体競技なのである。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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